カーブアウトを用いた大企業発新事業の成長戦略 京セラと東大IPCが具体事例で考える、新事業独立への道筋

    今年9月、オンラインで「カーブアウト」をテーマにしたTMIPセミナーが開催されました。3月のセミナー「新規事業の創出・成長を加速するカーブアウトの推進」に続き、大企業が新規事業に取り組む際の検討ポイントについて、実例を交えた紹介と議論が展開されました。

    登壇したのは、アカデミア系スタートアップへの投資や大企業カーブアウトへの支援実績が豊富な東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)の水本尚宏氏、京セラ株式会社内で新規事業を推進している経営推進本部Startupプロジェクト責任者の谷美那子氏、50件もの新規事業創出や企業に関わり、現在も複数の大手企業のフェローとして活躍する守屋実氏の3人です。

    東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC) パートナーCIO 水本尚宏氏からの説明
    東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC) パートナーCIO 水本尚宏氏からの説明

    OSの変更と目的の明確化がカギ

    まず水本氏が「東大IPC AOIファンドのカーブアウト支援」について紹介しました。

    AOIファンドは企業のイノベーション支援のために2020年に設立され、カーブアウトを投資対象としています。「日本において、ベンチャー投資だけで時価総額が数百兆円の会社を作っていくことは難しい。新事業を創出するには、大手の力を借りる必要がある」と水本氏。ただし、大手には自社に適した組織や文化があって、事業を創出する際には事業に合わせたOSの変更が必須であり、企業という箱を別に作る、つまりカーブアウトが有効と語りました。

    カーブアウトで実績のあるPEファンドは多数あり、VAIOやオリンパスのカメラ事業などが有名です。一方で、東大IPCが手がけるカーブアウトは、数億円の売上規模で、未完成の事業かつ成長力が高く、子会社経営陣が主導することが大半であり、カーブアウト後も一定の割合で経営陣が株主となっていることが特徴です。子会社やプロジェクトをベンチャーとして切り出すカーブアウトから、国家インフラ的な大規模なJV型まで実績があります。

    最後に「カーブアウトは古くから使われてきた手法」と水本氏は強調し、カーブアウトによってTOYOTAができ、さらにDENSOなど新たなベンチャーが生まれた例を挙げ、「日本の大手企業はカーブアウトで成長してきました。目的を明確にして当事者である子会社経営陣がぶれないことが大切」と述べました。

    仕組みを変えれば事業を生み出せる

    続いて、京セラ谷氏の新規事業推進伴走している新規事業家の守屋氏に登壇いただきました。

    大学の先輩が立ち上げたベンチャーに19歳で参画した守屋氏は、以降30年あまり新規事業一本でキャリアを歩んできました。その経験をもとに、氏が伝えたことは次の3つです。

    1つは「大企業は、必ず新規事業を生み出せる」ということ。根拠として「大企業には優秀な人材と豊富な資金、圧倒的な信用とネットワークがあり、スタートアップと比べて相対的には絶対に優位」と断言。さらに「新規事業は1分の1で成功するものではなく、いくつも生んで強いものが生き残るという現実からすると、生き残らないものを飲み込む体力のある大企業が有利」と力を込めました。

    ただし、残念ながら「99%同じ間違い方を繰り返している」というのが2つ目です。「大手は本業一本鎗の同質の戦いを続けてきて保身が大事になっている。機能が細分化され、機能さえ外注しているから、即時全体意思判断をすることができない」と言い、新規事業ではそれが足を引っ張ると指摘しました。

    では、どうすればいいか。3つ目として「仕組みを変えれば会社は生まれ変わる」と守屋氏。新規事業は本業と違うため、事業・組織・財務計画も違って当たり前であり、「事業の方針が明確で、かつ本業と全く違う判断でいいと上の人が理解していると新規事業が生まれやすい」と説明。「我が社がどんな状況で、何の事業を生み出したいのか、どんな未来を作りたいのかを考えることが大切。事業を切り出す手法はいくつもある中で、カーブアウトはその一つ。目的ではなく手法です」と強調しました。


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