米ホワイトハウスは5日、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がスイス・チューリヒで中国の外交トップの楊潔篪(よう・けつち)共産党政治局員と会談すると発表した。会談は6日に行われる。中国軍機が連日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入する緊張下で米中両国が対話の糸口を探るのは、衝突につながる過度な緊張や競争を制御しつつ、気候変動などで協力を模索するためだ。台湾をめぐる対中抑止力を構築する時間稼ぎの思惑もある。(ワシントン 渡辺浩生)
サリバン氏と楊氏の会談について米国家安全保障会議(NSC)の声明は「責任をもって米中間の競争の管理を試み続ける」とする。米通商代表部(USTR)のタイ代表も中国との閣僚級貿易協議再開を表明した。
バイデン政権は、「唯一の競争相手」とみなす中国に対し、同盟諸国と連携して覇権主義的な行動を封じ込めようとしている。日米豪印4カ国の「クアッド」や米英豪3カ国の「オーカス」といった安全保障の枠組みはその一環だ。今月に入り、日米英など6カ国は南シナ海で共同訓練を行い、台湾へ軍事的挑発を続ける中国を牽制(けんせい)した。
こうした対中抑止戦略は不変だが、バイデン政権は「同時に、中国を大国間対話に引き込む政策に踏み出した」と米外交コンサルタントのポール・ゴールドスタイン氏は指摘する。
そのひとつが8月末以降、オンライン形式で続ける国防当局者間の協議である。不測の事態が軍事衝突に発展するのを回避する危機管理のパイプといえる。
9月に入るとケリー大統領特使(気候変動問題担当)が王毅国務委員兼外相と会談し、気候変動に関する協力に意欲を示した。同9日にはバイデン大統領と習近平国家主席が電話会談。当初伝えられた以上に会話が進んだとみられ、バイデン氏が台湾問題で習氏をただしたほか、サイバーなど個別課題で対話継続を図ることも確認された。
バイデン氏には米軍撤収に伴うアフガニスタン情勢の混乱により米国の指導力が揺らいだ時期。イスラム原理主義勢力タリバンが実権を握るアフガニスタンにおける対テロ政策で中国側の協力を引き出したい。
習氏側も3期目続投を狙う中国共産党大会を来年に控えるが、経済成長の持続性に不安が生じる。「双方に決定的対立を回避したい国内の事情がある」と日本の防衛関係者は指摘する。
サリバン氏は楊氏と3月の米アラスカ会談で激しい言葉の応酬を交わしたが、スイスでは10月末にローマで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会談に合わせ首脳会談の実現を探る。米メディアによれば、中国は習氏の対面での出席予定はないと関係国に伝えたといい、オンラインを含めた会談の行方は不透明だ。
一方、米国にとって中国の海洋進出を抑止する包囲網構築は途上である。意思疎通にこだわりをみせる米側の足元をみて、中国が台湾への圧力を引き上げるリスクは捨てきれない。