日本の伝統行事である祭りが危機的状況に追い込まれている。高齢化による担い手不足などで参加者が減る中で新型コロナウイルス禍に襲われ今年も中止が相次ぐからだ。このままでは伝統文化を維持できず、観光客誘致も難しい。祭りの魅力発信と新たなファンの獲得が課題となっている。
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全国に約30万あるといわれる祭りの市場規模はコロナ禍前、1兆4000億円だった―。こう試算するのは「祭りで日本を盛り上げる!」をミッションに掲げるオマツリジャパン(東京都渋谷区)だ。
加藤優子社長は「祭りは地域交流や経済活動に欠かせないが、高齢化や資金不足など多くの課題を抱えている。しかもコロナ禍で令和2年以降、祭りのにぎやかな部分は中止に追い込まれ、経済的に大きな打撃となっている」と指摘、市場規模の縮小は避けられそうにない。
祭りは地域の人々の生きがいであり、交流の場。観光資源にもなり、大きな経済効果をもたらす。ヒト・モノ・カネを呼び込むキラーコンテンツだが、2年は7割の祭りが中止に追い込まれ、地域住民の祭りへの関心も薄くなっている。
このまま手をこまねいているわけにはいかない。こんな危機意識からオマツリジャパンは伝統文化の継承と地域活性化に向け動き出した。
今年7月、JR東日本グループと協業で祭りを起点に地域と人をつなぎ、その地域のファン(関係人口)を生み出すプログラム「祭り留学」を始めた。初年度は秋田県の男鹿(おが)市観光協会DMO推進室と連携し、同市に関係人口を呼び込む。
平成30年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された来訪神行事「男鹿のナマハゲ」をテーマに実施。毎年2月に開催される「なまはげ柴灯(せど)まつり」までオンライン、オフラインをあわせてツアーを5回開催し男鹿の魅力を伝える。
「ナマハゲの歴史や意味を知って見方が変わった。現地に行くことが楽しみ」「しきたりなどを聞いて勉強になった」
9月25日の第1弾「なまはげを知るオンラインツアー」の参加者は事前に届けられた地酒や秋の味覚などを味わいながら、ナマハゲに精通した「なまはげ館」の解説員、太田忠氏の説明にこんな感想を漏らした。
男鹿のナマハゲは、毎年大みそかに男鹿半島のほぼ全域で行われる民俗行事(神事)。「悪い子はいねぇがぁ、泣く子はいねぇがぁ」と悪事に訓戒を与え、家中の悪霊を祓うため各家庭を練り歩く。男鹿で長年受け継がれてきた風習で、今でも多くの集落で行われている。
しかし高齢化と若者の流出で「神の化身」であるナマハゲの担い手が減少する中でのコロナ禍により昨年は多くの集落で中止に追い込まれた。観光客目当ての柴灯まつりも今年は入場制限して開催した。
中止に追い込まれると地域コミュニティーへのダメージは大きい。誘客もままならず経済はますます疲弊しかねない。宿泊・飲食業者の中から「自分の代で終わり」の声も出ているという。
それだけに祭り留学への期待は大きい。DMO推進室の柿崎浩室長は「コロナ禍で来られない観光客もオンラインで誘致できる。収束後に足を運ぶきっかけになればいいし、まずは行事を見てファンをつくり、担い手の発掘につなげたい」と関係人口づくりに意欲を見せる。
祭り留学に携わるオマツリジャパンの菅原健佑氏も「ナマハゲの知名度は高いが、正しく理解している人は少ない。魅力を知りファンになってほしい」と参加を促す。
ただ、祭りは神事、宗教行為なので外部の人が入ることを拒む地域もある。太田氏も「後継者問題はまさに今、直面している。保存伝承を考えて担い手を募集する集落も出てきた。集落の住民で神事を守ることが大事という考えもあり、賛否両論あって難しい問題」と話す。
とはいえ「地域内で祭りの担い手や協賛金を調達できないなら域外に門戸を開放することも考えなければならない」と野村総合研究所の岡村篤氏は強調、祭りの維持と地域活性化には関係人口の創出が欠かせないと説く。
そのためには祭りの歴史や伝統に加え、その地域の文化や生活などの魅力を発信する必要がある。その意味でコロナ禍がもたらしたオンラインツアーは祭りに参加するハードルを下げるといえる。
また「祭りの開催当日だけ訪れるのではなく、その前後を含めて連泊する流れを作る必要がある」とも指摘する。祭りの関連場所をめぐったり、地域との交流を深めたりできる体験型ツアーに参加すれば地域への興味が増し、定期的に訪れて関係を深めたくなる。祭りの本番だけでなく、準備の手伝いに力を貸すようになり、将来的には担い手の一員になることが期待できる。
祭り留学でオマツリジャパンと協業したJR東日本スタートアップの俵英輔氏は「われわれはホテルなど観光施設を造れても、祭りというコンテンツを創ることはできない。その地域ならではの魅力を発掘・発信して関係人口を増やす必要がある」という。
第1弾のオンラインツアーに登場したナマハゲが最後に「コロナ収束後、男鹿に遊びにけ(来て)」と呼びかけると、参加者は「行きます」と返した。何度も訪れたいと思わせるだけの魅力作りが地域には欠かせない。
(経済部 松岡健夫)