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【ラジオ経営者列伝】売上高130億円 入れ歯差し歯最大手の未来

入れ歯や差し歯など義歯の製造・販売で国内最大手の和田精密歯研(大阪市)。創業家出身で3代目の和田主実(おもみ)社長(58)は産経新聞のインタビューに応じ、現在は3~4%の国内シェアを「10%ぐらいまで大きくしたい」との考えを示した。

和田精密歯研の入れ歯や差し歯など義歯の模型=大阪市東淀川区(南雲都撮影)
和田精密歯研の入れ歯や差し歯など義歯の模型=大阪市東淀川区(南雲都撮影)

--どんな会社か

「大きな虫歯ができて歯医者さんを訪れると、治療のため上下の歯型を取られることが多いと思います。歯医者さんで歯型を石膏(せっこう)模型にしてもらい、当社の営業マンがお預かりします。そして、当社の歯科技工士がかみ合わせや形などを模型で確認しつつ、入れ歯や差し歯、詰め物を製作します。全国の営業所は55カ所、『ラボ』と呼ぶ技巧所は20カ所あり、約1200人の従業員を抱えています。今年3月期の売上高は約130億円、経常利益は約3億9千万円です」

--一人一人の歯の形は違うため、技工士には熟練の技が要求される。どう育成するのか

和田精密歯研の和田主実社長
和田精密歯研の和田主実社長

「入社半年はトレーナーがつき、目標に応じてマンツーマンで指導します。当社は入れ歯や差し歯、ブリッジなど製品や素材、工程別に分業していますが、一人前になるには5~10年かかります。社内制度で、難関の実技と筆記の試験に合格すれば『スーパーテクニシャン』と呼ぶ最上位の技工士になることができ、手当がつきます。作業服と肩に付くワッペンの色が通常の技工士と異なり、憧れの対象です。スーパーテクニシャンになるには最低10年ぐらいかかります」

--国内最大手としての強みは?

「正確なマーケットはつかめていませんが、入れ歯・差し歯の国内市場は約3千億円といわれ、当社の売上高で計算すれば3~4%のシェアと考えています。全国に約6万8千軒といわれる歯医者さんの中で1万1500軒と取引があります。同業者の8~9割は従業員5人以下の法人化していない零細事業者です」

--ほめた人、ほめられた人双方に報奨金を出す「おほめカード」という社内制度がある

「どんなささいなことでもいいので感謝の気持ちがあれば、所定の用紙に自分の社員番号と相手の名前、感謝の内容を書き込む仕組みです。中でも、白いカードは主に営業マンが技工士に顧客の声を届けるときに使用します。技工士は患者の声を直接聞く機会はありませんので。大した金額ではありませんが、賞与に報奨金が上乗せされます。全体で年間約1万7千枚のカードが寄せられ、入社5年以内の離職率が27%と10年前より8ポイント改善しました」

--新型コロナウイルス禍の影響は?

「昨年4~8月にかけて取引量が減りました。特に関東は総合病院の歯科が閉鎖されたケースが多く、前年同期比3割ぐらい減りました。ただ、コロナ禍で海外旅行ができず、マスク生活で口元を見られることが少なくなっているためか、高価なインプラント(人工歯根)治療や歯の矯正の需要が伸びています」

--若いころから家業を継ぐ意思は?

「大学と並行して歯科技工士を養成する夜間の専門学校に通いました。創業者の父=和田弘毅(ひろき)氏=から資格取得を勧められたのですが、当時は後を継ぐ考えはありませんでした」

--大学卒業時、旅行会社にも内定していたが、父の会社を選んだ

「父の知り合いの企業経営者から『親の会社に入った方が将来のためになる』と説得され、父からも『入社したら中国に1年間、研修に行かせてやる』と口説かれました。全て父がシナリオを作ったのかもしれません(笑)」

--留学時代の思い出は?

「上海留学中の1989年に天安門事件を経験しました。日本人留学生は上海の総領事館に登録する必要があったのですが、すっかり忘れていました。登録すればいったん帰国するよう連絡が入ったらしいのですが…。中国に残っていると、留学先の大学新聞に『外国人が皆いなくなったのに最後まで残っていた勇気のあるヤツ』と紹介されました。天安門事件に揺れる中国をしっかり見ることができたのは貴重な経験です」

--社長に就任して14年余り。苦労したことは

「そもそも苦労をそれほど感じない性格です。社長になり、会長だった父が代表権を返上した際、保証人の名義が私に変更されました。個人で借金を抱えなければならない責任を感じました。一方、賞与をたくさん支給できたときには、社員に喜んでもらえるのがうれしいですね」

--技工士の世界でもデジタル設計の波が押し寄せている

「30年ほど前、日本に入ってきたデジタル設計の完成品サンプルを見てもまだまだと感じましたが、10年ぐらい前から普及し始めました。私も技工士に『スパチュラ(へら)を捨ててマウスを持とう』と呼びかけています」

--効果はあるのか

「へらを使ってワックスを歯の形にする伝統工法に対し、マウスで3D(3次元)画像を作ってかみ合わせもシミュレーションできれば、経験の浅い技工士でも効率性・生産性を高められます。当社の技工士がスパチュラを使って差し歯1本を作るのにかかる時間は平均13分ですが、デジタル設計であれば7分程度。現在、差し歯の全工程の半分ぐらいはデジタル化しています」

--将来的には全てデジタルに置き換わるのか

「人工知能(AI)を含め、歯医者さんと当社の営業マンを通した技工士とのコミュニケーションによる設計がデジタルでどこまで可能になるでしょうか。複雑で高価になるほど、歯医者さんと技工士のコミュニケーションが必要になります」

--高価なインプラント治療を敬遠する人はまだ多い

「入れ歯よりも快適なので、治療の選択肢としては優位性があると思います。私も4本入れていますが、虫歯になりませんし、天然歯のときより快適かもしれません。健康保険の適用になれば、爆発的に増えるでしょう」

--今後の夢は

「歯医者さんの満足度を通じて、患者さんに口福(こうふく)になってもらうことです。経営者の立場として最優先したいのは従業員満足度です。さらには、取引先や納入業者をひっくるめての口福を実現したいと思います。数値目標は絶対ではありません」

--関西企業の東京への流出が相次いでいる

「関西人として関西愛はありますが、経営は、それにこだわらない方がいいですね。ただ、コロナ禍で本社機能は東京でも大阪でもあまり関係ないと感じています。東京の市場は大きいですが競争も激しい。もしかしたら地方の方が伸びしろは大きいかもしれません」(聞き手 藤原章裕)

和田主実氏(わだ・おもみ)関西大社卒。昭和63年和田精密歯研。常務、副社長を経て平成19年6月から社長。25年6月から持ち株会社の和田ホールディングス社長を兼務。大阪府出身。

さらに詳しいインタビューの内容は、11月5、12、19、26日午後9時から放送のラジオ大阪「週末ワイド ラジオ産経」(FM91・9メガヘルツ、AM1314キロヘルツ)で。


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