小売り各社が、プライベートブランド(PB)の商品開発に力を入れている。従来PBの取りえだった安さのみならず、上質さやオリジナル性で勝負する商品が目立ちつつある。背景には小売りの近年の変化がもたらす「交渉力」の高まりがあった。店舗の飽和で競争が激しさを増す中、他社との差別化を意図したPB開発は、一層熱を帯びそうだ。
「ファミマルは最大のチャレンジのひとつだ」
10月から新PB「ファミマル」の販売を始めたファミリーマートの細見研介社長は、発表会でPBへの思いを力説した。従来PBをファミマルに刷新し、弁当や日用品など約810種類を順次展開する。ハンバーグなどチルド総菜の一部は、素材や製法にこだわる「プレミアム」シリーズとして提供。PB商品の売上比率は、現在の約30%から令和6年度末までに35%以上にすることを目指す。
小売りがPBを扱うメリットのひとつは収益性の高さにある。メーカー品であるナショナルブランド(NB)に上乗せされる宣伝費や中間マージンなどが少なく仕入原価が低い傾向にあり、ほかの小売りとの値下げ合戦にも巻き込まれにくい。販売価格も抑えられるため、かつてPBはNBの廉価版という意味合いが強かった。
ところが近年はファミマルのようなプレミアムシリーズや、NBにない個性的な商品づくりを目指す小売りが増えている。スーパーマーケットの業界団体が昨年公表した調査報告書では、業界の7割がPB商品を扱っていると推計。PBの効果について多かった回答は「粗利益の確保」(73・8%)、次いで「商品の安心・安全の向上」(55・2%)だったが、「企業ブランド価値の向上」(51・9%)も、2年前から10ポイント以上伸びており、小売りにとってPBが多面的な意義を持っていることが伺える。
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各社からは相次いで新商品が発表されている。
イオンは、一流料理人が監修した総菜類「トップバリュ プロのひと品」シリーズを10月から順次発売。外食自粛の影響で、自宅でも本格的な料理を楽しみたいといったニーズの高まりに着目した。
「みなさまのお墨付き」を展開する西友も、時短調理や健康志向などを鍵にレトルトカレーや菓子など約80品目を新たに発売。ベンチマークにしてきたNBにはない「独自性の高い商品開発にシフトする」と担当者は話す。
ドラッグストアも負けていない。マツキヨココカラ&カンパニーは、マスク生活による肌トラブルが増えたという声を基にPBのスキンケア商品を開発。容器にバイオマスプラスチックを使用するなど、環境対策でも訴求する。
「面白みに欠けるPBになってしまった」としてPBを一新したのはディスカウントストア「ドン・キホーテ」。「ノリでつくった」とするペペロンチーノは、ニンニクを従来品の6倍使用。ワイヤレスヘッドホンとVRゴーグルを一体化させた家電は「ハンパない没入感」としており、「ドンキらしいふざけてとがった商品を追求したい」(広報)と個性に磨きをかける。
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一方、PBの進化で相対的に需要のパイを脅かされるのはNBだ。にもかかわらず大手を含むさまざまなメーカーがPBの共同開発に協力する背景を探ると、小売りとメーカーとの関係性の変化があった。小売りは近年、M&A(合併・買収)などで規模が拡大。顧客データの活用も一気に本格化している。流通経済研究所の山崎泰弘氏は「小売りの交渉力が強くなっている」と指摘する。
PBは原則、メーカーが製造した商品を小売りが買い取る形となり、共同開発が決まった時点で小売りの各店舗での取り扱いが確約される。メーカーとしては販売規模のうまみが得られるほか在庫を抱える心配もない。また商品開発のためさまざまなマーケティングリサーチを実施しているメーカーにとって、小売りの持つ具体的な顧客データを活用できるのも大きなメリット。あるメーカー関係者は「規模とデータは大きい。パワーバランスが変わりつつある」と漏らす。
このほか共同開発を機に、棚面積で自社NBを優遇してもらうなど、総合的な関係づくりに寄与する場合もある。マツキヨココカラのPBを共同開発したコーセーは「(マツキヨココカラとの)さらなる関係性強化を背景に、NB商品を含めたトータルビジネスの拡大が見込める」としている。
小売りは、各社の出店戦略により商圏ニーズの奪い合いが過激だ。スーパーやドラッグストア、インターネット通販など、各業態の垣根も消えつつあり、競合が多様化している。選ばれる小売りになるには、差別化が欠かせない。
多くの小売りは、「PBは思想や哲学を体現する企業の顔」(イオンの吉田昭夫社長)と声をそろえる。またPBを通じた企業のブランド価値向上は「単に売り上げなどの規模的な成長を超えた、価値のある成長だ」(マツキヨココカラの松本貴志専務取締役グループ営業企画統括)と期待する。PBの商品開発を重点施策とする企業もあり、今後も活況が続きそうだ。
(経済部 加藤園子)