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1996-ベンチャーブームの中、現代ラーメンを煮えたぎらせた「96年組」

金融ビッグバンが提唱され、資本市場の活性化が声高に語られていた1990年代中盤。エンジェル税制が導入され、新興市場も次々に起動していた。バブル崩壊後のよどみに新しい流れを! ベンチャー振興が活発化したニッポン経済。外食業界、そしてラーメンシーンも熱く湧き立っていた。

橋本龍太郎首相(1996年12月31日)
橋本龍太郎首相(1996年12月31日)

起業が注目された1996年に相次いでオープンした『青葉』『武蔵』『くじら軒』の3巨頭に焦点を当て、ラーメン業界に地殻変動をもたらした一大パラダイムシフトを振り返っていく。


1996年は現代ラーメンのヴィンテージ・イヤー

ラーメンにもワインのようなヴィンテージ・イヤーがあるとしたら、それは1996年をおいて他にないだろう。5月に『らーめん くじら軒』が横浜で、『中華そば青葉』が中野で開業。10月には青山に『麺屋武蔵』がまっさらな暖簾を掲げた。1995年に、日本初のラーメン情報サイト「東京のラーメン屋さん」を開設した大崎裕史は、この3店を「96年組」と呼称。その後、全国のラーメン職人からベンチマークされ、ラーメンシーンを疾駆していく先導者を、次のように概括する。

「3軒の共通点は、醤油と煮干しという日本人には馴染み深い材料を活かし、伝統的な味を残しつつ、新しい味を生み出したこと。いずれの店主も修行経験がなかったことが幸いしたのか、既存の枠にとらわれず、自由な発想でラーメンを作って、老若男女を問わず人気を博した」(『日本ラーメン秘史』)

さっそく、96年組のストロングポイント、斬新さを紹介していこう。まずは『青葉』である。この店で語られるべきは「ダブルスープの体系化」「つけ麺ブームの再燃」である。ダブルスープとは豚骨スープと魚介系スープを別の寸胴で仕込み、仕上げ用の寸胴に合わせたり、提供直前に丼で合わせたりする手法だ。

製法自体は古くからあったが、明確に体系化してメニューに生かしたのは『青葉』が嚆矢。濃厚でコッテリとした味わいが出せる豚骨、香り高さが出せる魚介系素材は、味の抽出に最適な火加減、煮込み時間がまったく異なる。

そのため、一つの寸胴で煮込むと強みが十分に生かしきれない。それぞれを別に仕込むダブルスープは豚骨・魚介のポテンシャルを存分に引き出すことができ、力強くも香り高い、現代日本人の舌にフィットするラーメンが実現する。

また、『青葉』は従前のような醤油・塩・味噌といったスープ別ではなく「中華そば」「つけめん」という2本柱をメニューに打ち出した。食べ手の興味をつけ麺に再注目させ、90年代版つけ麺ブームを起こした立役者でもあるのだ。

「新時代のラーメン屋」としてブランディングしたのが『麺屋武蔵』だ。シックに黒を貴重とした内装で、BGMはジャズ。屋号には新感覚の『麺屋』を採用し、差別化を図った。そして、化学調味料不使用のラーメンを高度にまとめ上げて完成させ、「石巻に特注したサンマ干し」「羅臼昆布」と、スープ材料を開示することでもフリークの注目を集め、情報戦略で成功する。

現在では多くの店が取り入れている「限定ラーメン」も『武蔵』が先鞭をつけたものだ。レギュラーメニューが不動の位置を占め、常連には新規性を提供し、一見の客を話題性で引き込む。バジルやバターなど洋風の素材はもちろん、バレンタインシーズンにはチョコレートつけ麺を提供するなど、チャレンジングなメニューも開発。創作ラーメンの可能性を拓いてきた。

豚骨・鶏ガラをベースに魚介をブレンドしたスープを引っさげ、横浜に登場したのが『くじら軒』。クリアながら厚みのある旨みをたたえたスープは「神奈川淡麗系」と呼ばれ、近隣エリアには多くのフォロワーが生まれた。

同店は、ラーメンに「香りの演出」を加えたことでも知られる。ラーメンにはラードや鶏油、背脂、ニンニクを焦がしたマー油などが使用されてきたが、『くじら軒』はニンニクや鷹の爪などの素材を揚げた香味油をスープに加えた。水よりも比重が軽いだけに、香味油は丼の表面に浮かぶ。麺やスープを口にする前から、鼻腔に食欲をそそる香りをふわりと届けてくれるのだ。現代ラーメンはトリュフオイル、煮干し油など香味油でもイノベーションが進んできた。その元祖は、香味油に光を当て、香りの演出にチャレンジした『くじら軒』にある。


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