10月末に開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の期間中、開催地のローマに滞在していた。良い機会なので、まずG20の意義について語りたい。
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先進7カ国(G7)は高度に発展した民主主義同盟諸国の集まりであり、会合を開けば問題の対処に向けた答えを導き出すことができる。他方、G20も「重要な一等国」の称号を得た国々の集まりと見なされているが、実態は全く違う。
G20の一部の参加国は行政能力を欠いている。自国外に影響力を持たない国や真っ当な司法制度がない国もある。
G20の場で米中や米露といった特定の参加国が2国間会談の機会を設けられるという利点はあるが、枠組み全体では具体的な成果につながる本格的な政策論議は期待すべくもない。
G20サミットは、2008年の世界金融危機を受けて同年11月に始まった。だが、G20の枠組みは金融危機への対応でろくに機能しなかった。危機を乗り切ることができたのは、当時のオバマ米政権が09年に7千億ドル(約80兆円)を超える景気刺激策を実施する一方、中国も巨額の内需拡大や金融緩和策を進めたからだ。
中国が米国に呼応して対策に動いたことでオバマ政権は中国に寛容になり、その対中融和路線が確定することにもつながった。
一方、欧州は当初、「金融危機はウォール街の問題だ」として積極的に対応せず、後に損失を拡大させた国が多かった。また、ブラジルや南アフリカといった国は、危機の克服には何ら貢献しなかった。
そんなG20が今回、ローマでのサミットで気候変動問題を主要な議題として取り上げた。続いて英国では国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開かれている。これらの会議に果たしてどれだけの意味があるのだろうか。
G20参加国のうち、環境分野での「英雄」と位置付けられているのはドイツだ。脱原発政策を推進し、太陽光発電などの再生可能エネルギーを積極的に導入しているためだ。
しかし、ドイツは脱原発に伴う電力不足を補うため、不純物の多いリグナイト(褐炭)の石炭火力発電を30年以降まで使い続ける方針だ。褐炭は欧州の大気汚染の主因となってきたが、ドイツが太陽光発電などに熱心であるため他国から大目に見られているのではないか。
しかし、ドイツは日照量が非常に少ないことで知られ、実は太陽光発電には向かない。同時に、ドイツは風力発電にも力を入れてきたが、環境への悪影響を懸念する住民らの反対で苦境に立たされている。
ドイツのように、環境問題に熱心な勢力に説得されて脱原発と風力・太陽光発電を進めても、結局は石炭火力に頼らざるを得なくなる。一連の環境関連の会合は未熟な発電技術を政治判断で拙速に導入する事態につながってはいないか。
環境問題に熱心な勢力の表向きの主張は、気候変動を食い止めるために化石燃料を使うのをやめようというものだ。しかし、その真意は「アンチ資本主義」「アンチ経済成長」だ。ところが、そんな環境保護主義者たちに対して世界各国の政府は「黙れ」と言う政治的な勇気がない。
資本主義の仕組みには間断なき成長が不可欠だ。こぎ続けなければ倒れてしまう自転車と同じだ。
成長を求めるのであればエネルギーが必要だ。実用性の高いエネルギーを得るには化石燃料を燃やすか、原子力発電しかない。
一方で、例えば河川の多い日本ではマイクロ・ハイドロ(小水力発電)も有効だ。日本各地の河川に何万もの小型発電機を設置できるようにするのだ。
原子力をめぐる問題の一つは、その危険性が極端に誇張されていることだ。
1979年の米スリーマイル島原発事故では深刻な炉心溶融が起きたが、死者は1人も出ていない。86年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故でも、当初は4万人ががんで死亡すると推計されたが、国際原子力機関(IAEA)は同年、公式推計値を4千人に下方修正している。
温室効果ガスの削減を含む環境保護と経済成長の両立を目指す真の環境保護主義者であれば、原子力を支持すべきだ。例えば米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は原子力ベンチャーを設立し、ナトリウム冷却型の次世代小型原子炉の開発に乗り出した。
原発を推進するのか、それとも経済成長をあきらめるのか。世界は選択を迫られているのだ。(聞き手 黒瀬悦成)=毎月1回掲載
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エドワード・ルトワック 米歴史学者。米国家安全保障会議(NSC)などでコンサルタントを務め、現在は政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)上級顧問。安倍晋三元首相に戦略に関して提言していた。1942年生まれ。