正論12月号

    仏研究所が警鐘 中国の沖縄浸透工作 産経新聞パリ支局長 三井美奈

    ※この記事は、月刊「正論12月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

    天安門事件から32年の朝を迎えた天安門周辺=4日、北京(共同)
    天安門事件から32年の朝を迎えた天安門周辺=4日、北京(共同)

    米国と中国の対決で欧州の動向が注目される中、フランス軍と関係の深いシンクタンク「フランス軍事学校戦略研究所(IRSEM)」が、中国が世界で展開する情報戦について報告書を発表した。その中で、中国が沖縄と仏領ニューカレドニアで独立派運動をあおり、「潜在的な敵」の弱体化を狙っていると警鐘を鳴らした。

    フランスはニューカレドニアやタヒチ島を海外領土とする、れっきとした「太平洋諸国」である。日米豪印四カ国の枠組み「クアッド」に、英国と共に「クアッド+2」として参加する構想も浮上している。南太平洋での中国の脅威には、特に敏感だ。

    IRSEMは、フランス国防省が出資する独立研究機関。報告書は「中国の影響力作戦」と題して、九月に発表された。約六百五十ページにわたって、在外中国人を使った共産党の宣伝工作、国際機関への浸透、インターネットを使った情報操作などの事例を分析している。フランス政府の公式見解ではないにせよ、中国の浸透作戦に対する強い危機意識がにじみ出ている。

    ニューカレドニアは一九八〇年代に先住民の独立運動が活発化し、フランス政府との合意で二〇一八年以降、仏領残留の是非を問う住民投票が続いている。IRSEM報告書は、中国が在外中国人の親睦団体を通じて、独立派の指導者に急接近する実態を記した。ニューカレドニアを独立させて中国の影響下に置き、中国包囲網を打破する拠点とすることで、オーストラリアを封じ込められるという計算があるとみている。

    沖縄は、ニューカレドニアと同じような手法で、中国が浸透を図っている例として挙げられた。島民の独立運動への関与を深め、日本や在日米軍の勢力拡大を阻止しようというのである。沖縄の重要性 IRSEM報告書は、日本は島国気質が残り、国民の日本人としての一体感が強いとしたうえで、「沖縄や琉球諸島全体は例外である」と紹介した。島の住民には第二次世界大戦の苦い経験から、本土への複雑な感情が残ると説明し、それが中国に付け入るスキを与えていると指摘する。

    「住民は、日本(本土)に対して意見が分かれている。親中感情が広がっており、対中貿易で地元が恩恵を受けることで、助長されている。それは、中国にとっては利用可能な弱点であり、戦略的な好機にもなる。琉球諸島は、太平洋の第二列島線(伊豆諸島から小笠原諸島、ニューギニアに至る中国の軍事防衛ライン)へのアクセスを固められる位置にあるからだ。さらに、一石二鳥の効果も見込める。日本だけでなく、沖縄の在日米軍を妨害できる」

    日本では「沖縄独立」論と聞いても現実味が乏しく、一部の過激な議論のように響く。だが、中国が沖縄の反米軍基地運動に乗じているのは間違いない。報告書は、こうまとめている。

    「沖縄には、米軍基地を敵視し独立を求める住民運動があり(中国には)、好都合だ。島民は大多数がアンチ東京派で中央政府に反感を抱いている。その表れとして、二〇一八年には米軍基地に異議を唱えてきた玉城デニー知事が当選した。沖縄県は米軍の縮小を目指して戦っている。東京の中央政府は、沖縄が一方的に独立宣言する危険について深刻に受け止めている。中国は、外交や偽ニュース、さらに米軍基地に近い沖縄北部への投資拡大によって(独立を)促している」

    中国は近年、こうした情報戦を世界中で展開し、めきめきと力をつけている。「日本政府と沖縄の分断をあおっている」という見方には、説得力がある。

    ■創価学会と公明党

    IRSEM報告書は、中国の沖縄への思惑を示す例として、人民日報系の英字紙グローバル・タイムズが二〇一三年五月に掲載した論文をあげた。

    この論文は「琉球問題は、中国の梃になる」が表題。沖縄は日本に対する「強力なカード」として役立つと主張している。琉球独立運動を支援し、日本の国家としての統一性を脅かせば、日米同盟に対する中国の防衛措置になるという趣旨だ。琉球独立をめぐって、①研究機関への助成などで世論を形成する②国際社会で中国が問題提起する―という方策も示した。

    IRSEM報告書は、「これぞ、中国が明らかに実行したこと」と指摘する。その例として、中国の大学やシンクタンクが沖縄の独立派と学術交流を進めていること、中国メディアが日本の沖縄領有権を疑問視するような報道を繰り返していることを挙げた。中国が、琉球王朝の末裔に接近していることにも触れた。こうした動きは、グローバル・タイムズの論文にピタリ一致するというのだ。

    「沖縄では、琉球独立運動と米軍基地への反対運動、さらに憲法九条改正や自衛隊増強に反対する左派や平和活動家が結束し、共闘している。中国はこれらの運動を国益にかなうとみて支援している。日本の軍事力増強の妨げにつながるからだ。特に、日中接近を進める創価学会と公明党を支援している。沖縄の米軍基地に反対する中国の記事は通常、日本の左派や平和運動家の主張と重なっている」 中国と沖縄の経済関係が強まっていることにも注目した。米軍施設に近い沖縄北部での中国人投資の増加に加え、沖縄への中国人観光客が急増していると記した。さらに沖縄県と中国の間の姉妹都市提携も増えていると紹介した。

    IRSEM報告書は、米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書「日本における中国の影響力」を引用しながら、問題意識を共有している。

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    「正論」12月号 主な内容

    【特集 政治家・国民に問う】

    モリソン豪首相の決意見習え 杏林大学名誉教授 田久保忠衛

    誰が日本を滅ぼすのか グループ2021 安保環境の厳しさを語れ 東京外国語大学教授 篠田英朗×ハドソン研究所研究員 村野将

    〝やってる感〟出したいアメリカの思惑 軍事社会学者 北村淳

    TPPに乱入する中国の狙い チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫

    仏研究所が警鐘 中国の沖縄浸透工作 産経新聞パリ支局長 三井美奈

    これだけ向上した北朝鮮の攻撃力 軍事・情報戦略研究所長 西村金一

    【特集 政権への注文】

    正面から尖閣問題に向き合う覚悟示せ 八重山日報編集主幹 仲新城誠

    拉致の〝異常〟に慣れきってないか 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)事務局長 横田拓也×家族会事務局次長 飯塚耕一郎

    拉致被害者救出 政治が決断せよ 特定失踪者問題調査会代表 荒木和博

    米国から聞こえる低調な岸田評を覆せ 麗澤大学特別教授 産経新聞ワシントン駐在客員特派員 古森義久

    温暖化防止の本質は国益かけた経済戦争 産経新聞論説委員 長辻象平

    「財務省の影」脱し思い切った財政出動を 上武大学教授 田中秀臣

    緊急事態宣言は二度と必要ない 医師・元厚生労働省技官 木村盛世

    左翼政策「こども庁」実現めざすのか モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授 麗澤大学大学院客員教授 高橋史朗

    再生エネ礼賛で進む中国依存 姫路大学特任教授 平野秀樹

    太陽光規制 地方の実情 福島県議会議員 渡辺康平

    【特集 政局・秋の陣】

    「甘利幹事長」人事のあまりのひどさよ 連載「元老の世相を斬る」 元内閣総理大臣 森喜朗

    やっぱり恐ろしい安倍晋三という男 「政界なんだかなあ」 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

    立憲民主党幹部は共産党綱領読むべし 元衆議院議長 伊吹文明

    ▼「在日ウイグル人証言録④」帰りたくても帰れない  評論家 三浦小太郎

    <証言1>アフラン「脅かされている家族」

    <証言2>サダ―(仮名・男性)「早く日本に帰りなさい」

    <証言3>イリク(仮名・男性)「息子との

    通話は監視付き」

    ▼中共に忠実な「財新」が独立系メディアですか 本誌編集部

    ▼新連載 産経新聞の軌跡

    昭和20年代編 第1回 戦後保守とリベラルの源流 評論家 河村直哉


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