決着の先 関西スーパー争奪戦㊤ 消費者なおざり 統合効果見えず
「統合で売上高4千億円規模の『食品スーパー連合』が誕生する」
エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの荒木直也社長はこう強調する。H2Oは12月に関西スーパーマーケットを子会社化し、傘下のイズミヤと阪急オアシスのスーパー2社と統合する方針だ。共同仕入れや物流の効率化で収益力を高める。
専門家の見方は厳しい。「イズミヤの経営はうまくいっておらず、H2Oにスーパー事業を拡大する力があるのか疑問だ。百貨店の経営とスーパーの経営は別物。複数のスーパーを束ねて、ブランドイメージだけで攻めていけるのか」。帝国データバンク大阪支社の昌木裕司情報部長はこう指摘する。
3~6割引きずらり
巣ごもり需要で足元は好調のスーパー業界も、中長期的には人口減で市場が縮小しており状況は厳しい。
経済産業省の商業動態統計によると、国内スーパーの販売額は平成26年の13兆3699億円をピークに減少に転じ、5年間で約2700億円縮小した。スーパー同士はもちろん、ドラッグストアなど異業種やネットスーパーとの競争も激しくなっている。
こうした環境の中、オーケーは特売日を設けない「エブリデーロープライス(毎日安売り)」で消費者の支持を集めてきた。
「(競合店の特売価格と同額になるよう値下げする)『競合店対抗値下げ』だから、オーケーで買って損をすることはないのです」
買い物客であふれる横浜市西区の「オーケーみなとみらい店」内は、徹底した安売りを強調するポスターや店頭販促(POP)が随所に貼られている。
棚には3~6割引きと表示された商品がずらり。客の大半が、本体価格からさらに3%引きになる会員カードをレジで提示し購入する。「近隣のスーパーと比べても底値だと思え、値段に納得して買い物できる」。常連の男性(50)はこう話した。
10月29日の臨時株主総会で、関西スーパーは、消費者にきわめて分かりやすいオーケーの「安売り」路線を拒否した。
物流の効率化などで増えた収益をデジタル化の投資などへ振り向けるとするが、消費者が納得する成長戦略を示し、「安売り」を上回る価値を感じるスーパーになれるかが、関西スーパーの課題となる。
統合しても差別化なければ
一方、オーケーの動きが刺激となり加速するとみられるのは、「安売りスーパーの〝空白地帯〟である関西」(アナリスト)への他地域からの参入と、経営統合などによる業界再編だ。
オーケーが関西に狙いをつけたのは、地盤とする首都圏での出店余地が少ないため。大阪、兵庫の人口集積地を中心に約60店舗を展開する関西スーパーを子会社化できれば、一挙にシェアを拡大できる。
平成28年には東海地盤のバロー(岐阜県多治見市)、昨年9月には首都圏で展開するロピア(川崎市)と、いずれも安売りを武器とするスーパーが大阪府内に進出。消費者の財布にとっては歓迎だ。ドラッグストア大手のコスモス薬品(福岡市)も関西で勢力を拡大しつつある。
経営統合などによる再編の機運は全国で高まっている。統合には規模を拡大し、経営体力を強化する効果がある。
9月には、流通大手のイオンが、松山市などで展開するフジを買収し、傘下のマックスバリュ西日本(広島市)と合併させると発表。「高齢化、人口減少に加え競争も激しくなっている」。フジの尾崎英雄会長は記者会見で合併に踏み切った理由をこう説明した。
「今後、業界を超えた再編もありうる」。こう予測するのは岩井コスモ証券の有沢正一投資調査部長だ。
だが再編で経営体力を強化しても、消費者の心をつかめなければ生き残れない。他社との差別化に成功し、コロナで変わった消費者のニーズを取り込めるのか。スーパーの戦いは続く。(この連載は、井上浩平、岡本祐大、桑島浩任が担当しました)