【シンガポール=森浩】東南アジア諸国が新型コロナウイルスの影響で停止していた外国人観光客の受け入れ再開に乗り出した。ワクチンの接種完了が条件。観光業では新型コロナ禍の間に700万人以上の雇用が失われた。感染再拡大の懸念もくすぶるが、重要産業の早期回復を優先課題として〝開国〟にかじを切りつつある。
「迅速に行動する必要がある。観光客は他国への旅行を決めるかもしれない」。タイのプラユット首相は10月、フェイスブック上で、観光客の早期受け入れ再開を目指す姿勢を強調した。
タイは今月1日から日本を含む63カ国・地域からの入国者の隔離措置を免除した。条件として、ワクチンの接種完了▽渡航前のPCR検査での陰性証明▽到着時の再検査と陰性結果判明までの指定ホテルでの一晩待機-などを求めている。
タイでは新型コロナ流行に伴う出入国の規制強化によって、国内総生産(GDP)の約2割を占める観光業が大打撃を受けた。11月に入っても1日当たり7千~8千人の新規感染者が確認されているが、これ以上の観光業の冷え込みは国内経済に深刻な影響を与えると判断した。
他の国々もワクチン接種を条件に出入国規制の緩和に動いている。シンガポールは9月から順次隔離なしの入国を認め、対象国を拡大。今月15日には計13カ国となる。日本は含まれていない。
インドネシアは10月中旬、日本など19カ国から観光地バリ島への国際線受け入れを1年半ぶりに再開。今月2日にはワクチン接種完了を前提に、全土で入国者の隔離期間を5日間から3日間に短縮すると発表した。マレーシアは15日から観光地ランカウイ島に限り、ワクチンを接種した外国人を隔離なしで受け入れる。
世界旅行ツーリズム協議会によると、2020年の東南アジアの観光業雇用者数は前年比約17%減少で、700万人以上が職を失った。人の流れの再開は感染再拡大につながりかねないが、各国は国内のワクチン普及と同時に開国を進めたい考えだ。
ただ、国によってワクチン接種以外にもさまざまな条件があり、〝完全開国〟にはまだ遠い。東南アジア観光は中国人旅行者が多くを占めたが、中国は感染拡大を完全に押さえ込む「ゼロコロナ」政策を堅持し、国民の出入国を制限している。各国の期待通りに客足が戻るかは見通せない。