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【朝晴れエッセー】二房のミカン・11月12日

「このパンが一番好きじゃ」と、幼子のように喜ぶ祖母。

あれから30年以上経過しているが、ついこの間のことのようだ。祖母は、ずっしりと重たい給食のパンが好物だった。

嚙めば嚙むほど甘みが増す純粋な小麦粉で焼き上げられたパンは、何もない時代を生き抜いてきた祖母にとって、ぜいたくな甘味だったのかもしれない。

子供の頃、給食のパンを残して持ち帰ると、祖母はいつも喜んでくれた。

月日は流れ、社会人になった私は、地元から遠く離れた宇和島の中学校で働いていた。

ふと祖母のことを思い出し、給食のパンを届けたくて母に電話した。そのとき、祖母がもう長くはないことを知った。

末期がんで衰弱していた祖母が最後に食べた物は、祖父がむいたミカン二房(ふたふさ)だった。若い頃は酒に溺れ、生活費も子育ても祖母任せだった祖父。人の世話は、祖母の看病が初めてかもしれない。

祖母は、好物よりも祖父の気持ちをしっかりと受け取って天に召されたのだった。二房のミカンは、祖父母の気持ちの交わりを示しているようにも感じられた。

店頭にミカンが並んでいるのを目にすると、あの日の一コマを思い出す。酸いも甘いもいろいろ、ミカンの味は人生の縮図のようにも思えてくる。

祖母が最後に食べたミカンは、甘かったかしら。

赤樫順子 47 松山市


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