米SNS(会員制交流サイト)大手フェイスブック(FB)が社名を「Meta(メタ)」に変更した。成長事業と位置づける仮想現実空間「メタバース」から新社名を取り、新領域で主導権を握る姿勢を鮮明にした。だが、SNS事業が「利用者軽視」との批判を集める中、世間の矛先をかわす「看板(社名)の架け替え」と冷めた視線が向けられる。同社に米当局が新たな調査に乗り出すなど、逆風はやみそうにない。
社名変更もFBの名称は継続
「メタバースは開拓すべき分野だ」
ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は10月28日、社名変更を発表したイベントで、こう述べた。同氏は、SNS事業を出発点とする同社を「人と人をつなぐ技術を構築する企業」だと説明。3Dグラフィックスや仮想現実(VR)などのコンピューター技術を活用して構築した仮想空間で、別の場所にいる人々が交流できるメタバースに注力する方針を強調した。
ザッカーバーグ氏はすでにメタバース事業展開を公表していたが、社名を変更して「本気度」を示した格好だ。技術者の大量採用や大型投資も打ち出し、仮想空間分野でも他社が容易に参入できない「プラットフォーム」を握る構えだ。
一方、フェイスブックの名称はSNSとして使用を継続する。折しも元社員による内部告発によって、同社のSNS事業が利用者保護を軽視したとの批判が高まっていただけに、「イメージ刷新を狙った社名変更に過ぎない」と突き放した見方も出ている。
内部告発で評判がた落ち
FBをめぐっては2018年に大規模な個人情報流出が発覚し、プライバシー保護が不十分だと非難された。その後もSNSの投稿管理のあり方などが米議会やメディアの集中砲火を浴びている。
最近は元社員のフランシス・ホーゲン氏が、FB傘下の写真共有アプリ「インスタグラム」が若年層の心理に悪影響を与えることをFBが把握していたことを示す内部調査結果を、米メディアなどに提供。米議会が「自社の利益を優先し、必要な改善をしなかった」などと規制強化の必要性を訴え、FBの評判は落ちるばかりだ。
こうした主張についてザッカーバーグ氏は「真実ではない」と否定。FBに関して「誤った印象を与えようとする」ものだと反論している。ただ、米政界ではFBなどの巨大IT企業への厳しい姿勢が超党派で共有されており、世論の反発を呼んで火に油を注ぐ構図となっている。
一方、米メディアによると、元社員のホーゲン氏が内部文書を持ち出したFBの情報管理体制に不備がなかったか、米連邦取引委員会(FTC)が調査に乗り出した。ホーゲン氏には米証券取引委員会(SEC)も接触しているという。
新規事業にも影響
こうした中、メタ(旧FB)は11月2日、SNSのFBに投稿された写真や動画の個人を識別する顔認証機能を取りやめると発表した。顔認証機能に使っていた10億人超のデータが削除される。
投稿写真の人の顔をタップすると、膨大なデータから、その人物の候補が自動的に選択されて表示される機能だった。顔認証技術がプライバシーを侵害しているとの懸念が高まっており、これまで利用者を限定していた機能を全面的に停止することにした。
メタに対しては、個人情報保護や投稿管理の不備に加え企業文化や内部管理体制まで厳しい目が向けられる中、新たな事業領域やサービス展開でもハードルが高くなっている。
ザッカーバーグ氏が野心を隠さなかった暗号資産(仮想通貨)「リブラ」構想でも、名称を「ディエム」に変えて再出発したが、各国の金融当局から金融犯罪への悪用リスクなどが拭えないとして、「世界通貨」を発行する当初の計画を大幅に縮小せざるを得なくなった経緯がある。
米デポー大学のジェフリー・マッコール教授(コミュニケーション論)は、米議会専門紙「ザ・ヒル」への投稿で、FBの一連の問題発覚を踏まえると「SNSが文化を高めるのではなく、劣化させてきたことが明白になってきた」と指摘。「米国文化はテック起業家の壊れた『倫理の羅針盤』によって破壊された」と指弾している。
(ワシントン 塩原永久)