太いタイヤで舗装されていない山道を走破できるマウンテンバイク(MTB)が、山梨県の山間部で地域創生の立役者となりつつある。MTBは近年のアウトドアブームで人気が高まる一方で、地域によっては「登山道を荒らす厄介者」とみられ、山への立ち入りを規制されているケースもある。しかし山梨県では愛好者が中心となって「トレイル」と呼ばれる走行環境を整備。MTBを観光資源として新たなファンを引き寄せているほか、地域に浸透した活動で山林の環境保全にも貢献している。日本の国土面積の約3分の2を覆いながら、維持管理や資源としての有効活用の難しさが全国的な課題となっている森林。長崎幸太郎知事が「MTBの聖地」化を掲げ、牽引する山梨県の取り組みは山間部が抱える課題解決の糸口となるのか。
MTBを“健全な形”で広げたい
11月21日、山梨県の南アルプス市にある櫛形山(くしがたやま)の麓に、約200人もの人だかりができていた。お目当ては「南アルプス立沼マウンテンバイクパーク」。無料(任意課金制)で一般開放された国内最大級のMTBパークの“初乗り”イベントだった。さぞかしたくさんのMTB愛好家が…と思いきや、訪れていた人たちの大半は家族連れだ。
「自転車に乗れる人なら誰でも走れるトレイルを目指した」と話すのは、トレイルの整備を手掛けた一般社団法人「南アルプス山守人(やまもりびと)」の代表、弭間(はずま)亮さん(39)。MTBの裾野を広げるため、初心者や子ども、ファミリーが楽しめるパークを目指した。「自然の魅力、山梨の魅力、そしてMTBの魅力を感じてほしい」。そんなイベントが櫛形山で開催されることが口コミで広がり、募集開始後、参加者は即定員に達した。約9年の年月をかけて地道に取り組んできた弭間さんたちのプロジェクトの一つが、結実した瞬間だった。
自らもMTB愛好者である弭間さん。趣味のスポーツとして山を走っていた頃、その場を正式なトレイルとして堂々と走行できない“グレー”な立場に疑問を感じていた。「山を荒らす危険な乗り物」として地域の厳しい目が向けられていたからだ。
そんな中、山梨県にある櫛形山の活用を目指していた南アルプス市内の団体からMTBトレイルの環境整備の話をもちかけられた。容易に引き受けられることではないとわかっていたが、「このままではMTBはいつまで経ってもグレーゾーンから抜け出せない。日本にMTBを健全な形で広げるためには、自分が覚悟を決めて人生を賭けるしかない」と思い立った。