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「夜の街だから感染」ではない、保健所が見落とした歌舞伎町の本当の感染経路

新型コロナウイルスの感染拡大をめぐっては、歌舞伎町のホストクラブやバーが集団感染の温床としてバッシングを浴びた。だが、街を取材したノンフィクションライターの石戸諭さんは「感染が広がった原因は、大声でのコールや回し飲みなどのどんちゃん騒ぎではなかった」という--。※本稿は、『ゲンロン12』(ゲンロン)の掲載論文「「ステイホーム」試論 記録された現実から見えること」の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです 写真=iStock.com/ParfonovaIuliia
※写真はイメージです 写真=iStock.com/ParfonovaIuliia

調査に対し頑なに口を閉ざした歌舞伎町の若者たち

第2波が直撃した2020年夏の新宿で、新型コロナウイルスに感染した患者やクラスター(集団感染)として報告が上がってきた中に、明らかにホスト特有の外見をした若者たちがいた。だが、彼らは調査に対し、肝心なことを何も明らかにしなかった。すなわち、職業を明かさず「無職です」と言い張り、歌舞伎町で働いていることも頑として認めなかった。自身の接触者についても「言いたくありません」と頑なに口を閉ざしたのだった。(記者/ノンフィクションライター 石戸 諭)

対応に困ったのは、新型コロナウイルス対策の最前線で感染経路を追う新宿区の保健師たちだ。これでは調査は立ち行かなくなるとの声が上層部にまで上がってきた。これは多くの保健所関係者が認めるところだが、新宿保健所は、管区には国立国際医療研究センター病院があり、かつ長年HIVなどの感染症対策にも取り組んできた、感染症対策の経験を長年にわたって積み上げてきた保健所である。そこで対応できないということは、日本各地で繁華街対策が失敗することを意味する。

この頃、東京都知事の小池百合子が連呼していた「夜の街」という差別的な言葉はメディアを通じて社会に広がり、日増しに「昼の街」との分断を強める方向に機能していた。新宿区役所には「夜の街を閉めろ」「感染者が出た店の名前を公表しろ」との声が連日届いていたという。この社会に生きる多くの人にとって、「夜の街」は遠い存在であり、だからこそ安心して石を投げつけられる存在になっていた。

新宿区が店舗名を公表しなかった理由

新宿区、そして新宿区保健所はそうした風潮に迎合しなかった。言葉よりも、実践のほうが彼らの取り組みを雄弁に語る。新宿区長・吉住健一は、歌舞伎町の有力ホストクラブグループ「Smappa!Group」会長で歌舞伎町商店街常任理事でもある手塚マキとコミュニケーションを重ねながら、ホストたちとのホットライン構築に向けて動き出していた。

新宿区側が一貫していたのは、「新宿区において店名公表は感染拡大防止にとって逆効果になる」という考えだった。現に彼らは感染者が出た店舗を一切公表しなかった。「店」を守ったのではなく、コミュニティを守ろうとしたからだ。店名を公表すれば、社会に広く蔓延している処罰感情を満たせるだろう。だが、それによって店側には、店名が公表されるリスクを取るくらいなら検査には協力しない、というインセンティブが働く。

仮に一地区の店を軒並み営業停止にしたとしても、ホストは「個人事業主」であり、生活のために別の職場を求めて地区外の店を転々とすることが容易に予想できた。それでは感染が他地域にも広がる。一方、より強硬に全国一斉に店を閉めさせるという策は現実的ではなく、仮に実現しても膨大な補償費用と失業者が発生する。コストは増大する一方だ。吉住も高橋も、社会的な制裁によって経路が把握できない感染を広げるより、より感染を防げる実務的なやり方を選んでいた。

店の外で広がっていた意外な感染源は…

そんなやり方を取る中、保健所にとって何より大きかったのは、なぜホストたちの間で感染が広がってしまったのかという謎を突き止めたことである。彼らもそうだったが、メディアも社会も、ホストたち特有の営業形態--シャンパンタワーを作って大声でコールする、あるいは客やホスト同士で肩を組み、回し飲みで乾杯を繰り返す、無防備で刹那的などんちゃん騒ぎ--が原因で感染が広がるのだろうと想定していた。ところが、現実はまったく違っていた。


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