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地方の路線バスの“生存戦略” 百貨店の商品を郊外で販売 北海道帯広現地ルポ

路線バスの後方の座席を商品の運搬・販売用スペースに改装して移動販売を行う「マルシェ(市場)バス」。乗客も運びながら移動販売も行う路線バスという、全国初のモビリティサービスが12月5日に北海道帯広市でスタートした。利用者が大幅に減っている路線バスの座席を半分以下に減らし、空いたスペースを活用して地元の百貨店の商品を運んで、高齢者が多く住む郊外の団地でマルシェを展開する。運行初日には多くの住民が訪れ、笑顔があふれた。利用者減による公共交通期間の収益悪化という地方共通の課題に、世界的にも珍しいという取り組みは解決の糸口を見出せるのか。経済産業省の実証実験として続けられる来年2月までの運行で可能性を探る。

マルシェバス内で商品を選ぶ買い物客(SankeiBiz編集部)
マルシェバス内で商品を選ぶ買い物客(SankeiBiz編集部)


「乗ってもらえない」なら「載せる」

日高山脈を背景に牛やエゾリスが可愛らしく描かれた赤い車体の「十勝マルシェバス」。実証実験の中心となる地元帯広市のバス会社、十勝バスの車両の本来のカラーである黄色を正面部分に残しつつ、農業用トラクターを思わせるデザインがあしらわれている。いつもと違う路線バスの姿には行き交う地元住民も興味深げに視線を投げかけ、「注目を集める十勝らしいデザインにしたかった」という取締役事業本部長、長沢敏彦さんの最初の狙いは的中したようだ。

しかし愛らしい見た目とは裏腹に、マルシェバス開発の背景には地方の路線バスが抱える切実な問題がある。長沢さんによると、帯広市では少子高齢化や人口減少等で路線バスの利用者は年々減少。そこに新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけ、売り上げはコロナ前より3~4割減となった。「このままでは地域の足として存続できない状況」だという。

十勝バスはこうした苦境について、コロナ禍が収束しても改善する可能性はないと見込む。「テレワークやインターネット通販など生活様式が大きく変わってしまった以上、従来のような移動頻度はなくなることは私たちも覚悟している。コロナ前には戻らないという前提で減収分を取り返すための新しい事業が必要だと考えている」という。

そこで発案されたのが、乗客減で遊休状態となっている座席を荷物の運搬・販売スペースとして活用する移動販売事業。帯広駅と、バスで30分ほどかかる郊外で約4500人が暮らす「大空団地」を結ぶ路線を活用し、市街地から商品を運んで現地で販売するというサービスだ。

大空団地は帯広エリアでは数少ない人口増加地区だが、5店あったスーパーは相次いで閉鎖し、いま徒歩圏内にはコンビニエンスストア1軒のみという買い物に不便な地域。少し離れた場所にあるショッピングモールに行くための自家用車が欠かせない。しかし団地ができて55年が経った現在、65歳以上の老年人口の割合は42.2%(2020年)と高く、車の運転もさることながら市街地へのバス移動も負担に感じる人が増えているという。

地方では高齢化と地域公共交通の利用減少は密接に関係しており、帯広市のみならず全国の地方自治体が抱える問題だ。これらの課題を解消する新サービスとして事業化の可能性を探る狙いから、「マルシェバス」の試みは経済産業省が進める「地域新MaaS(Mobility as a Serrvice)創出推進事業」の実証実験として採択された。

路線バスと移動販売を組み合わせた事例がこれまでなかった理由について、「十勝・帯広新モビリティ検討協議会」のメンバーとして企画立案に携わるKPMGモビリティ研究所の高橋智也さんは、「そもそもこのようなアイデアがなく、思いついたとしても実際に形にしようとする事業者がいなかったのではないか」との見方を示す。車両の設計に関するノウハウもなかったため、帯広運輸支局と連携しながら路線バスとしての車両要件を守りつつ設計を行ったという。


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