働き方改革を阻む年末調整 廃止して「全員確定申告」にするとどうなる?

    会社や行政関係に勤めている人は、年末調整が完了し所得税の還付を待つばかりではないでしょうか。ボーナスが無くても所得税が少しだけでも還付されると嬉しいものです。年末調整は働く人達一人ひとりの所得税を確定する作業です。本来個人が自ら行うべき税務申告を、なぜ会社が人手をかけて対応する必要があるのでしょうか。年末調整を廃止すれば、管理部門の業務が大きく削減されるのではないでしょうか。

    ※画像はイメージです(GettyImages)
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    源泉徴収制度の歴史

    日本の源泉徴収制度は明治時代にスタートしました。日露戦争の軍事費捻出のための増税では未納者が増加し、大正・昭和と景気動向を反映し未納者の増減を繰り返してきました。第二次世界大戦後は申告納税制度が機能せず、800万件の督促状が発送され、予定税額の4割が滞納されるなど、国家財政が危機的状況に陥ります。

    日本史の中で考えるなら、租庸調に始まり、年貢を納め、現代に源泉徴収制度に移り変わってきたようです。海外ではナポレオンの時代の戦費調達として貴族を対象に実施、ドイツでは国民を対象に源泉徴収制度を適用したとされています。

    年末調整による企業への過大な負担と責任

    日本税理士会連合会の税制審議会の答申では、「源泉徴収制度の導入以降、その範囲は拡大の一途をたどり、現行の制度は極めて複雑化している。源泉徴収義務者(企業)には過大な事務負担と法的責任が課せられている」と述べられています。

    税務の専門資格である税理士の団体からみても、制度が複雑になっていると考えています。単純に制度が複雑になっていると同時に、社会状況も変化している点も見逃せません。

    源泉徴収制度の意義

    改めて源泉徴収制度の意義を考えてみると、税収の30%を占め20兆円にも達する所得税のうち8割に相当する16兆円が源泉徴収によって納付されています。毎月あるいは支払い時点で確実に納税を実施することで、滞納を防止する効果があるとされています。

    一方で、国民側のメリットは、毎月あるいは支払いの都度源泉徴収により納税を行うことで、一度に多額の納税を行う必要がありません。支払いが平準化されます。しかし、確定申告であれば、2月~3月に申告納税すれば済むところ、当年度の各月に納税するということの問題点は無いのでしょうか。

    投資の観点から考えれば、手持ち資金を早めに納税することで、投資の機会を失っていると考えることもできるでしょう。事前に納付することで、利息がつくなら大歓迎です。納税しすぎた場合には還付加算金がつきます。生命保険や国民年金は前払いすると割引する制度がありますので、同様の制度が無ければ源泉徴収による機会損失は解消することができません。

    税金の滞納によって財産の差し押さえが行われることで、生活が脅かされるという危険性から国民を守るということであれば、メリットと言えるのかもしれません。


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