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「過去の成功体験に浸らない」サムスン電子と日本企業はなぜここまで差がついたのか

■すべてはビジネスチャンスを確実に手に入れるため

それに加えて、11月にサムスン電子は、5G通信や人工知能への対応、およびメタバース関連サービスの拡大を念頭に置いた新しいDRAMを発表した。さらにサムスン電子は、車載半導体分野での取り組みも強化し、5G通信を用いた自動車とネット接続、パワーマネジメント、インフォテインメント(情報の取得とエンタテインメントサービスの活用)に用いられる3つの半導体を発表した。このうちインフォテインメント用の半導体は独フォルクスワーゲンの車載アプリケーションサーバーに採用される。

メタバース、電動化やコネクテッド技術の実装を背景とする自動車の変革によって、最先端のロジック半導体などの需要は増える。ビジネスチャンスを確実に手に入れるために、今回の構造改革によってサムスン電子は全社的な意思決定スピードを速め、新しい発想に基づくモノやサービスの創造と、その実現を支える半導体の創出を強化したい。少し長めの目線で考えると、サムスン電子がさらなる構造改革に踏み込むことも十分に考えられる。

■競合よりも早く意思決定することを重視

わが国企業はサムスン電子の事業運営姿勢を学び、成長を実現することを考えるべきだ。今回のサムソン電子の改革によってはっきりしたことは、成長期待の高い最先端分野で競合企業よりも早く意思決定をすることを重視している点だ。特に、設備投資の重要性が格段に高まっている。それはサムスン電子とTSMCの競争を考えるとよく分かる。

複数の部門を持つサムスン電子よりも、ファウンドリ専業のTSMCは設備投資などの意思決定をより迅速に行いやすい。世界経済の環境変化が加速する状況下、意思決定の速さはデジタル化や脱炭素など先端分野での企業の競争力に決定的な影響を与える。

サムスン電子がシェアの差を縮めるためには、さらなるスピードと金額で設備投資を進め、TSMCよりも先に最先端の製造技術を実現しなければならない。サムスン電子が成長の加速化のためにDS部門を分社化する、あるいはファウンドリ事業だけを独立させるといったダイナミックな意思決定が下される展開も想定される。それは、サムスン電子のSET部門がアップルなどとの競争に対応するためにも重要だ。

■過去の発想を引きずる日本は変化に対応できていない

サムスン電子は過去の経験にとらわれず、常に成長期待の高い分野にスピーディーに経営資源を再配分する。わが国企業はその発想を取り入れるべきだ。より踏み込んでいえば、まねるとよい。半導体業界では、1986年時点で世界のトップ10の半導体メーカーのうち6社がわが国だった。わが国では、総合電機メーカーや重電メーカーの一部門が半導体を製造した。その後、本邦半導体メーカーの競争力が失われた一因は、過去の事業運営の発想から脱却できなかったからだ。

わが国では世界経済の変化に対応できなくなった雇用慣行や意思決定の体制など、過去の発想を引きずる企業が増えた。そのため、わが国経済全体で見た場合に、自動車に代わる経済の大黒柱としての新しい産業が育っていない。

わが国企業が長期存続を目指すために、各社は自力で組織の変革を進めて、成長期待の高い分野で個人がより能動的に新しい発想の実現に取り組む経営風土を醸成しなければならない。構造改革によってメタバースなどへの対応力を高めようとするサムスン電子にわが国企業が学ぶ点は多い。


真壁 昭夫(まかべ・あきお)法政大学大学院 教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)


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