新生銀行を手に入れたが…SBI「第4のメガバンク構想」に立ちはだかる深刻な問題

    PRESIDENT Online

    ■カードローン事業で収益源を増やしたい

    その一方で、企業は内部に資金をため込み、借り入れのニーズが少ない。財務省が発表する年次別法人企業統計調査によると2020年度末の金融と保険業を除くわが国企業の利益剰余金(新聞報道などで内部留保と呼ばれる)は約484兆円の過去最高に達した。コロナ禍の発生によって一時的に資金需要が増えた場面はあったが、わが国企業全体として資金需要は弱い。

    銀行にとって、資金を貸したくても、借りてくれる企業は少ない。結果的に、多くの地方銀行が投資信託の販売などによって収益を得なければならなくなっている。経営体力が相対的に小さい地方銀行が自力で成長期待が相対的に高い海外事業を強化し、海外企業への信用供与などに取り組むことも難しい。

    SBIと提携する地方銀行にとって、相対的に厚い利ザヤが期待されるカードローン事業で新生銀行と協業することは、収益源の多角化につながる。新生銀行の証券化商品ビジネスも、地方銀行の収益獲得に資す可能性がある。新生銀行にとっても、地方銀行との協業の強化によって、地域ブランド創生などビジネスチャンスは増えるだろう。

    ■第4のメガバンク構想に立ちはだかる問題

    ただし、SBIの第4のメガバンク構想が想定通りの成果につながらないリスクはある。その一つが、超低金利環境が長引き、想定外に地方銀行の経営体力が低下する展開だ。

    SBIが地方銀行との提携を増やした根底には、急速に地方銀行の経営体力が低下する可能性は低いとの見方があるはずだ。その見方に基づき、まずはデジタル技術の導入などによって地方銀行の事業運営の効率性を高める。そのうえでSBIは新生銀行のノウハウを持ち込むことによって銀行ビジネスの成長を加速させたい。

    その事業戦略にとって、超低金利環境の長期化の影響は軽視できない。わが国では人口の減少などによって経済の縮小均衡化が加速している。本来であれば、政府はエネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生に取り組まなければならないが、今のところ岸田政権にはそうした考えが見られない。経済全体で新しい需要の創出を目指した取り組みが加速する展開は期待しづらい。

    ■企業のアニマルスピリットにどう影響するか

    そのため、成長期待が高まって資金需要が盛り上がる展開を想定することは難しい。日本銀行が異次元の金融緩和を続ける可能性は高い。かなりの期間にわたって国内の長短の金利差は足許のような低水準で推移する、あるいはさらに縮小することが考えられる。それに加えて、地域によっては急速に過疎化が進行し、都市部以上のスピードで資金需要が低下することも考えられる。

    その結果としてデジタル技術導入によるコスト削減や新生銀行のカードローンビジネスによる収益強化などのシナジー効果が発揮されるよりも前に、地方銀行の経営体力が弱まる展開は排除できない。その場合、SBIの銀行ビジネスが持続的に収益を獲得することは難しくなる恐れがある。

    そうしたリスクに対応するために、SBIは新生銀行と地方銀行の協業強化を急ぐだろう。それに加えて、SBIは傘下の銀行勢と異業種企業の提携や、より多くの地方銀行との提携を進めることによって、事業運営の効率性を一段と高めようとするだろう。それが、わが国の個人や企業のアニマルスピリットにどういった影響を与えるかが見ものだ。

    真壁 昭夫(まかべ・あきお)

    法政大学大学院 教授

    1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。


    (法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)


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