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瀕死容疑者救うのは「真相究明のため」 京アニ事件被告の元主治医

大阪市北区曽根崎新地のビル放火殺人事件で、関与が疑われる谷本盛雄容疑者(61)は煙を吸うなどし、意識不明の重体になっている。同容疑者が模倣したとみられるのが、2年前の京都アニメーション放火殺人事件だ。この事件では青葉真司被告(43)が犯行後に重いやけどを負い、生死の境をさまよった。なぜ瀕死(ひんし)の容疑者を救うのか。「真相究明への道筋をつくるだけ」。青葉被告の主治医だった医師が語った。

鳥取大病院救命救急センターの上田敬博教授(同病院提供)
鳥取大病院救命救急センターの上田敬博教授(同病院提供)

捜査関係者などによると、谷本容疑者は出火後も現場から逃げるそぶりはなく、火の中に入っていくような行動を取った。現在病院で治療を受けているが、重度のやけどや気道熱傷、一酸化炭素中毒のため意識不明の重体が続く。

《傷病者の背景を問わず高次医療が必要であれば、鳥取大学医学部付属病院救命救急センターで受け入れます》

放火事件翌日の18日、同センターの上田敬博(たかひろ)教授(50)は自身のツイッターにこう投稿した。「目の前にいる傷病者が被疑者であろうが被害者であろうが、全力で救命するだけ」。こう言い切る教授の淵源(えんげん)は、36人が死亡した京アニ事件で再確認した医師としての使命だ。

上田教授は、当時勤務していた近畿大病院(大阪府)で、同事件で殺人罪などで起訴された青葉被告の主治医を務めた。搬送された被告は全身の9割に重いやけどを負い、当時の死亡率は95%とされた。医師としてできるのは、「彼を救って真相究明に向けた次のステップにつなげること」。被告自身の損傷していない皮膚の細胞を培養してつくった表皮を移植するなどし、救命に成功した。同時に、被害者のために被告の治療を続けなければならないとのプレッシャーが重くのしかかり、「医師としての覚悟も試された気がした」と振り返る。

そんな中、大阪で京アニ事件をほうふつさせる凶行が起きた。ガソリン購入の経緯や計画性など両事件は共通点が多く、谷本容疑者は京アニ事件を模倣して事件を起こした可能性が指摘されている。しかし容疑者は今も重体となっており、事件の背景事情は誰も分かっていない。

青葉被告は約4カ月に及ぶ治療で窮地を脱し、自ら話せるようになるまで回復した。「同様の事件が起きないようにするためには、裁判で当事者から、なぜ事件を起こしたかを聞くしかない」と上田教授。「容疑者だから」と治療を諦めていたら、京アニ事件は多くの犠牲者を出した悲しい事件で終わっていたと痛感する。「奪われた命は戻らない。しかし遺族や犠牲者のためにも、事件の真相究明への道筋をつくるのが医師の使命ではないか」と強調した。(桑村大)

京都アニメーション放火殺人事件 令和元年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京都アニメーション第1スタジオから出火。建物内にいた社員70人のうち、36人が死亡、32人が重軽傷を負った。ガソリンをまいて火を付けたとして、青葉被告が殺人や現住建造物等放火などの疑いで逮捕、起訴された。警察庁によると、殺人事件の犠牲者数としては平成以降で最悪。


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