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「割り勘もPayで!」現金を持ち歩かない若者の声で思い出したラトビアの青年

20代の若者たちと会食をした時のことだ。支払う時に、「年齢相応の割り勘で」という提案があった。その時、「割り勘もPayで!」と叫ぶ社会人の若者がいた。集金を担当していた学生が「電子決済ではなく、できたら現金でお願いしたい」と頼んでも、「現金を持ち歩かない主義だから」と言って譲らない。それが「現代の常識だ」とも言い添えた。結局、私が、現金で立て替えた。その時、かつて取材に行ったある国の青年を思い出した。

「割り勘もPayで!」と叫ぶ社会人の若者がいた。「電子決済ではなく、できたら現金でお願いしたい」と頼んでも、「現金を持ち歩かない主義だから」と言って譲らなかった(Getty Images)※画像はイメージです
「割り勘もPayで!」と叫ぶ社会人の若者がいた。「電子決済ではなく、できたら現金でお願いしたい」と頼んでも、「現金を持ち歩かない主義だから」と言って譲らなかった(Getty Images)※画像はイメージです

ガムも住宅もクレジットカードで

2009年9月――私は、10日間ほど東欧へ取材旅行に出かけた。前年に発生したリーマンショックの余波がヨーロッパを襲い、ギリシャが財政破綻。さらに東欧でも次々と国家財政の破綻が迫っていた。その実態を取材するのが目的だった。訪問先は、ウィーン、ハンガリー、そしてラトビアだった。

その青年(仮にヤーニスとする)に会ったのは、ラトビアの首都リガだった。

バルト三国の一つであるラトビアは、長年、ソ連の呪縛の下にあったが、ソ連崩壊後は、西欧化が進んでいた。そして、2004年にはEU(欧州連合)にも加盟(但し、経済力が脆弱なため、14年までユーロは使えなかった)。名実ともにヨーロッパの自由主義経済圏の国となりつつあった。

21世紀初頭、東欧諸国は次々とEUに飲み込まれていった。客観的に見れば、到底そんな実力があるとは思えなかったのだが、先進国にとっては、それらの国が有する安い労働力と商圏の確保が魅力だった。

グローバル経済は、アメリカを頂点とした国際経済の生態系の下で動く。つまり、アメリカが咳を一つしただけで、末端の国は肺炎になって死に至る可能性がある。いわゆるバタフライエフェクト(ある国で蝶が羽ばたいただけなのに、それが末端に行くと巨大台風になるという意味)が起きるのだ。

その生態系の危機がもたらす破壊力の凄まじさを世界中に知らしめたのが、08年のリーマンショックだった。アメリカの投資銀行の破綻が、ギリシャやアイスランドの財政破綻をもたらし、09年には、東欧全域に広がってしまったのだ。

ラトビアも破綻危機の最中にあり、その現状を関係者に取材するのが訪問の目的だった。ヤーニスは、地元でのガイド兼通訳だった。20代前半だが日本への留学経験もあり、楽観主義者で真面目な人物だった。当時はリガでSE(システムエンジニア)をして再度日本への留学するための資金を貯めていた。

通訳は的確で、ガイドとしてもとても柔軟かつ丁寧だった。

彼はヘビースモーカーで、一緒にリガ市内で取材をしていると、一日に1、2度はタバコを購入する。その度に、「小銭、恵んでもらえませんか」と頭を下げる。タバコを買うお金がないのではない。現金を持たないからだ。

コーヒーもチューインガムも全てクレジットカードで購入する。それが、リガの若者の日常だった。

こうした日常が始まったのは、ラトビアがEUに加盟してからだ。ラトビアはスウェーデンとの関係が深く、経済はスウェーデンの金融機関が実質的に支配していた。スウェーデンの金融機関は、ラトビア国民にクレジットカードの便利さを教え、適当な与信で何枚もカード契約をさせ、さまざまな西欧先進国の「素晴らしい製品」を売りつけた。その結果、若い世代を中心に、タバコから、高級車、住宅までクレジットカードやローンで購入するのが「当たり前」の社会となったのだ。


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