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竹中工務店、地域課題をまちづくりで解決 長野・奈良井宿で古民家をホテルに


大手ゼネコンの竹中工務店が地域のステークホルダー(利害関係者)と連携して、まちづくりの姿を描き、課題解決を進める活動を加速させている。かつて中山道の宿場町として栄えた奈良井宿(長野県塩尻市奈良井)では、築約200年の古民家をホテルやレストランなど複合施設に改修して今月、グランドオープンさせ、地域に賑(にぎ)わいを取り戻す起爆剤にしようとしている。

往時の面影を色濃く残す奈良井宿
往時の面影を色濃く残す奈良井宿

■地域との連携・協働で課題解決

400年の歴史を誇る奈良井宿は、中山道の宿場から東海道と共通する草津、大津宿の2つを除いた六十七宿の中で、江戸からも京からも34番目という真ん中に位置した。

木曽十一宿では最も標高が高く、難所の鳥居峠も控える。多くの旅人で栄えた往時の面影は現在の街並みにも色濃く残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。

かねて塩尻市と地域課題について検討を続けてきた竹中工務店は、「観光まちづくり」「森林の課題」「過疎化・担い手不足」などの課題を抽出。2020年1月に持続可能な社会づくりや社会課題の解決に取り組む「連携協定」を同市と締結した。連携事項では「歴史的建物資源や文化資源の活用」や「(森林資源と地域経済の持続可能な好循環を生み出す)森林グランドサイクル」などが盛り込まれた。

「森林グランドサイクル」とは同社の登録商標。いわゆる〝森林サイクル〟が「木を植えて、育てて、伐って、また植える」なのに対して、〝森林グランドサイクル〟は「森林とまちをつなぎ、森林資源の循環と木材を活用した地域経済の循環を構築すること」だという。

■歴史的建造物を活性化の起爆剤に

〝まちづくり総合エンジニアリング企業〟を目指す竹中工務店では、島根県雲南市(2019年4月)、埼玉県小川町(同年11月)とも連携協定を締結している。

竹中工務店では連携協定に基づいて、行政や地域の関係者と奈良井宿の課題を検証。長野県の調査によると、18年の奈良井宿への来訪者(観光客)数は年間62万人強と木曽路随一でありながら、うち60万人以上が日帰り客だった。このため、観光客1人あたりの消費額はわずか900円程度にとどまっていた。

竹中工務店まちづくり戦略室の高浜洋平副部長によると、「当時の奈良井宿には蕎麦店と喫茶店ばかりで洋食店などはなかったし、閉店も早く、毎晩営業する店もなかった。また、民宿・旅館も7軒47部屋にとどまり、大浴場もなかった」と振り返る。

高浜副部長は「多様な層への幅広い魅力づくりと滞在時間を増やしていく仕掛けが必要」と判断。奈良井宿の課題解決に向けて、歴史的建造物という地域資源を活用した複合施設をつくることで賑わいを創出し、地域活性化の起爆剤とする構想を本格化させた。

複合施設は全12客室の古民家ホテル「BYAKU Narai(ビャク ナライ)」をはじめ、地元産の食材を活用した料理を提供するレストラン「嵓 kura(クラ)」、温浴施設「山泉 SAN-SEN(サンセン)」、ギャラリー「hoihoi(ホイホイ)」、酒蔵「suginomori brewery(スギノモリ ブリュワリー)」、バー「TASTING BAR suginomori(テイスティング バー スギノモリ)」の6業態。いずれもかつての街にはなかった業態だ。

このうち、ホテルは1793年創業の酒蔵で、木曽五大銘柄酒と呼ばれ、街のシンボルでもあった「旧杉の森酒造」と、江戸時代に奈良井宿の主産業であった曲物(まげもの)職人の住居からはじまり、近年は民宿としてにぎわった「旧豊飯豊衣(ほいほい)民宿」を改修した、ともに木造地上2階建ての造りだ。

「ビャク」というネーミングは、竹中工務店とともにこのプロジェクトに参画する47PLANNING(ヨンナナプランニング、福島県いわき市)が展開する新たなホテルブランド。同社によると、ビャクは「百」に由来し、住居などを意味する「うかんむり」と人を意味する「にんべん」と併せれば、「宿」という漢字を形づくることができる。ビャクという名前には「街や建物に眠る百の体験や物語を体感できる宿」という思いを込めたという。

■歴史の趣と快適さを両立

建物の内部は囲炉裏の煙にいぶされて黒ずんだ柱や梁(はり)がむき出しになり、土壁が残る部屋もある。竹中工務店が重視した「遺(のこ)す」という考え方を具現化しており、歴史を十分に感じさせつつも、一見すると改修や補強がほとんどされていないのかと見まごう。

竹中工務店設計部の長谷川裕馬氏は「上から補強材などを打ち付ければ簡単に補強できるが、歴史の趣や古民家の良さを生かすため、構造補強を感じさせないことにこだわった」と説明する。断熱、遮音については、壁や天井、床をいったんはがして、内側に断熱材を入れたほか、遮音材も充填(じゅうてん)。地震や強風などに耐えられるよう、天井内をブレース(筋交い)という工法で補強し、壁や床の後ろには天然木材をスライス・圧縮した「構造用合板」を張り巡らせた。

前述の高浜副部長によると「多くの古民家リノベーションは、古民家だから寒くても仕方ない、虫がいても仕方がないという考え方。でも、そこから一歩進めて『古民家でも温かく、安全・安心に泊まれる空間をつくる』との考えでプロジェクトを進めた」と、他の古民家リノベーションとの違いを強調する。

もちろんすべてが順風満帆だったわけではない。ゼネコン大手である竹中工務店の名前を聞いて当初、地元には警戒心も持ち上がり、地域との共存を危ぶむ向きもあったという。

だが、プロジェクトでは竹中工務店の名前は全面には出てこない。例えば、古民家の借り上げは同社と塩尻市森林公社が共同出資で設立した「ソルトターミナル」が担い、2軒の古民家リノベーションの事業主体もソルトターミナルと塩尻市森林公社で、施工はいずれも地元業者だ。もちろん各施設の運営主体も47プランニングが設立した「奈良井まちやど」などであり、竹中工務店ではない。全体のグランドデザインを担いながらも、協働してまちづくりを進めていることの証だろう。

■地域資源の徹底活用で課題解決

酒蔵を改修したレストラン「嵓 kura」では、シェフ自らが毎日調達する地域食材を使った料理を木曽漆器に載せて提供。地元の日本酒やワインなどとのペアリングを楽しませてくれる。

この時期ならば、冷酒にはかぼちゃとカマンベールチーズのおやき、シナノユキマスの刺し身にはピノ・グリのワイン、熱燗や冷酒を十分に堪能した後には、木曽牛と雑穀米の土鍋ご飯で締める…といった具合だ。

満足感に浸りながら、ふと天井を見上げると柱や梁の間からは一斗瓶のシャンデリアが垂れ下がる。そこから「杉の森酒造跡には、一斗瓶が2階に残っていた」という酒蔵ならではのエピソードが広がる。

また、温浴施設「山泉 SAN-SEN」は、信濃川の源流となる山の湧き水を引き込んでいることにちなんだネーミング。壁には木曽五木(ヒノキ、サワラ、アスナロ、コウヤマキ、ネズコ)、床には松代産の柴石を使用している。

男女とも浴槽がひとつというシンプルなつくりだが、前述の高浜副部長は「当初は浴場をもっと大規模に、サウナや薬草風呂など数種類の浴槽をつくって、湯めぐりできるようにする構想だった」と打ち明ける。だが、新型コロナウイルス禍という外部環境の変化を踏まえて、宿泊者が安心・安全に滞在できるよう「共同風呂をシンプル化する一方で、全客室に風呂を設置するよう計画を変更した」と説明する。

ちなみに引き込んだ山の湧き水は、地元の木曽森林組合から調達した木質チップを活用したバイオマスを燃料で沸かす。

森林は単なる木材の供給にとどまらず、二酸化炭素(CO2)の吸収や土砂災害防止などの国土形成にも重要な役割を担っている。だが、林業が安価な外国産木材に押されて衰退すると、地域経済の低迷や土砂災害防止をはじめとする森林が持つ機能の低下を招くなど負のスパイラルに陥ってきた。

湧き水を沸かす木質チップは間伐材から供給される。森林を健全に育成するためには不可欠とはいえ、直接利益を生み出すものではなかった間伐が、燃料としての木質チップを生み出せるとなれば、ビジネスとしての意味合いを持つ。それは地元の課題である森林資源の有効活用や林業の担い手不足の解決にも道を開くことにもつながる。しかも化石燃料を使わずお湯を沸かすという意味では、地球環境に優しく、持続可能な社会づくりという時代の要請に応える象徴的なスキームといえる。

今回の複合施設の開業は、ただ観光客を誘致する仕掛けにとどまらず、地域経済の再生、まちの活性化につながるという具体例の一つになるともいえそうだ。

高浜副部長は「『BYAKU Narai(ビャク ナライ)』をはじめとする複合施設は普通の観光地とは違い、地域の文化や歴史を深く掘り下げたり体感したりしている。よりものごとの本質に触れて感動体験をしてほしい」と語っている。

BYAKU Narai(ビャク ナライ)の詳細はこちら
竹中工務店の公式サイトはこちら

提供:株式会社 竹中工務店


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