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町全体が一つの宿に 地域再生に貢献「まちやど」広がる 周遊促す

町全体を一つの宿に見立てる「まちやど」が広がっている。全てのサービスを館内にそろえて宿泊客を囲い込むホテルや旅館と異なり、提供するのは宿泊のみで食事や入浴は町に出て楽しむ。商店街は活気づき地元住民との交流も活発化する。町の魅力が伝わり移住者を増やして地域再生に貢献するところも出てきた。

真鶴出版の前に立つ川口瞬代表=神奈川県真鶴町
真鶴出版の前に立つ川口瞬代表=神奈川県真鶴町

「観光地を訪れるのではなく、日常の延長のような旅をしたかったので楽しかった。初めてなのに懐かしい気持ちになった」

オーガニックコットンで作った今治タオルなどを製造販売するIKEUCHI ORGANIC(愛媛県今治市)の牟田口(むたぐち)武志氏は11月、東京から電車で1時間半程度の神奈川県真鶴町を夫婦で訪れた。有名な温泉地として知られる湯河原町の隣に位置し、町の半分を海に囲まれた真鶴の狭い小道を通り抜けて眺望のよい場所に行ったり、商店で土産を買ったりと1泊2日の旅を満喫。宿泊先ではタオル導入を呼び掛けるなどすっかりなじんだ。

案内したのは、同町で「泊まれる出版社」を立ち上げた真鶴出版(https://manapub.com)のスタッフ。平成27年の開業以来、宿泊客を必ず町歩きに連れ出す。自然を満喫しながら町の歴史や文化を紹介し、商店街に足を伸ばして今の町の雰囲気を知らせる。

真鶴港のそばで酒店を営む草柳商店も協力先の一つで、夜な夜な集まる地元住民との交流が楽しみだ。店主の母親で「あーちゃん」と呼ばれる草柳文江さんは「移住など定住人口と(地域と多様な関わりをもつ)関係人口を増やしてくれた真鶴出版には感謝しかない」と真顔で語る。

真鶴出版の川口瞬(しゅん)代表も移住者の一人だ。「町民も歓迎するので暮らしやすい。われわれ経由で移住を決めたのは約50人・20世帯に上る」と話す。同社が薦めるパンやピザなども移住組がつくったものだ。地元の寿司屋や居酒屋とともに繁盛しており、それだけ町を潤している。

東京の下町情緒が残る人気の観光エリア「谷根千(やねせん)」にも「まちやど」がある。台東区谷中、文京区根津、同区千駄木周辺のことだが、このうち谷中の裏路地にひっそりとたたずむのがホテル「hanare」(https://hanare.hagiso.jp)。27年に築50年の木造アパートを改修し寝泊まりだけの宿泊棟としてオープンした。

食事は地元の飲食店でとり、大浴場は近くの銭湯だ。土産は商店街や路地に店を構える雑貨屋、稽古教室や寺社で文化体験も楽しめる。行きたい場所はチェックイン時に渡される町歩きマップで探せる。

しかし、それだけでは観光に来る交流人口を増やすだけにとどまりかねない。地域づくりの担い手となる関係人口を増やすには「地元住民のように谷中の日常を味わってもらうしかない」とhanareを運営するHAGI STUDIO宿泊部門マネージャーの坪井美寿咲(みずき)さんは強調する。「お互いさま」という東京の下町らしい親密な生活が体験できるのも谷中の魅力で、「一見の観光客より、こうした谷中の価値を認める人を増やす」。

国学院大学の椎原(しいはら)晶子教授は「大規模ホテルは全てを館内で賄うので町は寂れる。宿は気持ちよく寝る場所でよく、地元住民が通う銭湯で汗を流し、夜の街に繰り出して常連客と会話を楽しむことが町のにぎわいにつながる」と指摘する。町にある日常を観光資源として生かすことで、その町にしかない宿泊体験を提供できるという。

町ぐるみで宿泊客をもてなす動きは全国に広がる。「まちやど」を運営する22事業者が集まる日本まちやど協会の宮崎晃吉(みつよし)代表理事(HAGI STUDIO代表取締役)は「地域と宿が一体となって町の活性化に取り組み、価値観を共有できる人(関係人口)を増やす」と意気込む。

新型コロナウイルス禍の前、日本の観光地は外国人があふれかえっていた。真鶴出版でも9割を占めたが、現在は日本人がほとんどだ。外国人がいなくなり休業中のhanareは来春にも再開予定で、関係人口を増やす新たな仕掛けも用意する。コロナ禍で静かな今は、日本人に地域の魅力を訴えるチャンスといえる。(松岡健夫)


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