2001年―デフレ時代に百“味”繚乱! ラーメン激戦区・高田馬場

早稲田大学 大隈記念講堂
早稲田大学 大隈記念講堂


ラーメン激戦区として知られる高田馬場~早稲田エリア。醤油に塩、味噌に豚骨、鶏白湯、ユニークご当地まで何でもあり。あらゆるタイプのラーメンがしのぎを削るこの地だが、「激戦区」として認知度を上げたのは2000年代初頭のこと。戦後初のデフレ宣言直後、飲食業界が値下げ競争に苦しむ中、都の西北にはシーンを先導する気鋭店が登場した。時代を象徴するラーメンに焦点を当て、日本経済の興隆と変貌、日本人の食文化の変遷を活写する本連載。男気あふれるパワフルな豚骨魚介『俺の空』は長蛇の列を作り、ラーメンプロデューサーの創意が光る『渡なべ』が女性を惹きつけた。2001~2002年に登場した2店の台頭をフックに、ゼロ年代に勃興したラーメン激戦区に迫る。

高田馬場~早稲田ラインは東京ラーメンのメルティングポット

高田馬場駅から早稲田大学のキャンパスまで徒歩で向かうこと、それは通称「馬場歩き」。地下鉄やバスの交通費を節約するため、約2kmの道程を行く早大生は少なくない。駅前ロータリーからランドマークのBIGBOX高田馬場を横目に道をゆけば、そこかしこで目にとまるのがラーメン店の暖簾だ。高田馬場駅にはJR山手線、東京メトロ東西線、西武新宿線が乗り入れ、副都心線の西早稲田駅も好アクセス。早稲田大学だけではなく東京富士大学、各種専門学校も多数。早稲田通り・明治通りという幹線道路も走っており、ラーメン業態には極めて好立地なのは一目瞭然だ。情報サイト「ラーメンデータベース」を参照すると、高田馬場駅の半径1km以内では80以上もの店舗がラーメンを提供しているほどである。

一帯にラーメン文化の基盤ができたのは1968年のことだ。札幌味噌ラーメンを掲げ、『えぞ菊』が開店。芳醇な味噌だれと濃厚スープで大学生、サラリーマンらの胃袋をわしづかみに。以後、この高田馬場ラーメンチャンプに挑むべく、多くの店が出店し始めた。『えぞ菊』は今なお存在感を発揮しているが、高みを目指す強豪店は、まさに枚挙にいとまがない。

筆頭に上げるべきは『らぁ麺やまぐち』。鶏清湯×醤油のクリアにして芳醇な味わいは全国のラーメン店がベンチマークする完成度。本格派といえば、大阪の名門『麺哲』で研鑽を積んだ店主が営む『ラーメン巌哲』も最右翼だ。塩ラーメンは『麺屋宗』、鶏白湯なら『鶏白湯麺蔭山』、家系ならガッツリ度満点の『武道家』。激辛系も『旨辛ラーメン表裏』が一目置かれており、二郎系では『ピコピコポン』、九州系豚骨なら『博多ラーメンでぶちゃん』、牛骨スープは『ラーメン道玄』。つけ麺は『つけ麺屋ひまわり』、『麺屋武蔵』系列の『鷹虎』も推せる。油そばは『東京麺珍亭本舗』、台湾まぜそばなら『麺屋こころ』が意気軒昂だ。

老舗なら早大生御用達の『メルシー』も忘れてはなるまい。変わり種でも、麺を焼いて提供する『焼麺劔』が創業10年を数え、トムヤムクンラーメンの『ティーヌン』は20年選手と息が長い。気鋭新人枠でも『破壊的イノベーション』、間借り業態で勝負する『だしと麺遊泳』がフリークの熱視線を集める。チェーン系は『一風堂』『蒙古タンメン中本』『野方ホープ』『つけ麺屋やすべえ』と、見知ったレーベルがズラリ。地方からは、埼玉から移転してきた『らーめんよし丸』、秋田発の味は『末廣ラーメン本舗』、大阪から参上した『ふく流らーめん轍』が泡系ラーメンを届け、『さっぽろ羅偉伝』は北の味噌ラーメンを実直につくり続ける。

東京に激戦区は数あれど、スープのバリエーションではこちらが屈指。まさにラーメンのメルティングポットだ。そして、毎年多くの店がオープンしては閉店する栄枯盛衰も激戦区ならではだろう。新陳代謝が活発な東京ラーメン・エコシステムを目の当たりにできる環境でもある。

今回クローズアップするのは2001年創業の『俺の空』、2002年創業の『渡なべ』だ。両者とも、オープンから20年近い年月を経て、今なお安定して食べ手を集める古豪。創業当時の息吹を探るべく、ガイドブック『石神秀幸ラーメンSELECTION2003』(2002年双葉社)より初出時の紹介文を抜粋しよう。

『俺の空』

「豚骨のコクと魚介の香り、それぞれが強烈に主張し合ったパンチ力のある味わい。スープはゲンコツ、背ガラ、豚足腹脂でとる骨系と、豚バラ肉、豚軟骨、野菜でとる肉系を別々に仕込んでから一本の寸胴に合わせ、なじませるためしばらく煮込む。軟骨の効果で適度な粘度がついているため、旨味と風味が尾を引いてリッチな印象を深め、麺との絡みも上々だ」

『渡なべ』

「スープは強烈な魚介風味ながら魚特有の苦味やエグ味がなく、ドロンとした舌触りは九州ラーメンのよう。豚骨と鶏ガラをじっくり煮詰め、一晩冷ましてから煮干や昆布、カツオ節などを投入して完成」

共通点は、豚骨スープを濃度高く煮出しつつ、魚介系の出汁によるうまみ、香りもガツンと効かせていること。前回「2000」で取り上げた『せたが屋』もそうだが、豚骨・魚介のダブルインパクトがゼロ年代のラーメンシーンを席巻していた。TOKYOラーメンのショーケースたる高田馬場で、時代の空気に乗った両新星は着々と頭角を現していったのだ。

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