今回の報告書での日本の労働生産性の低さは、日本が新型コロナウイルス禍の中でも雇用を維持することに重点を置いた結果、他国に比べて就業者数が減らなかったという事情もある。労働生産性の低さをマイナス要素と単純に断じることはできない。
日本では賃金が伸び悩んでいるとはいえ、物価上昇の鈍さもあって、労働者の間の危機感は薄いともいわれる。「各企業の労働組合は賃上げよりも雇用の確保を優先させている」(大手シンクタンク研究員)といい、1人当たりの労働生産性が上がりにくい背景になっている可能性がある。
■適切な報酬について考え直す時期
ただ、日本生産性本部の木内氏は日本の労働生産性の低さについて、「国内だけをみていれば大丈夫でも、海外との差がつくことはやはり問題だ」と指摘する。日本の経済力が上がらず、物価も安い状況が続けば、海外から日本の資産を買い占められるリスクも高まる。不動産などだけでなく、重要な企業が外国資本の手に渡りやすくなる状況も生みかねない。
また、イノベーションが不十分で企業の国際的な競争力が高まらない場合、輸出で稼ぐことの難易度も増す。さらに企業が十分な収益を上げられない国では、政府が分配政策に回す原資も小さくなり、結局は格差の拡大が避けられない状況も想定される。
このため、イノベーションを起こせるような優秀な人材の育成や獲得に資金を投じることは、国力低下を避けるための施策になるともいえる。木内氏は「チームの間で処遇に差をつけないやり方は日本の国民性に合ってはいるが、(米アップル創業者の)スティーブ・ジョブズのような人材に、チームプレーだから報酬は増やせないと言っても通用しない。日本の良さを生かしながら、適切な報酬について考え直す時期がきている」と話している。