政府が2050年脱炭素の目標実現に向け、遺伝子操作を加えた微生物に二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスとなる特定化学物質を食べさせることで、燃料やバイオプラスチックなどを効率よく作り出す「合成生物」技術の実用化に乗り出すことが2日、分かった。令和4年6月をめどに策定する岸田文雄政権の「クリーンエネルギー戦略」を検討する審議会などで議論を加速させ、同戦略に盛り込む方針だ。
CO2の発生を抑制したり、地中に埋めたりするといった方法とは別に、バイオ技術を活用して「CO2を資源化する技術」として日本が開発を主導し、世界の温室効果ガス削減につなげる。今後、国内のバイオベンチャーや関連する製造業などを支援することで、技術開発が加速する方策を検討していく。
技術の仕組みとしては、回収したCO2などを食べ、さまざまな物質を生産できる菌である「水素細菌」に遺伝子操作を加え、最も効率よく燃料や繊維、プラスチックなどを作り出すことを狙う。水素細菌は、藻などと比べ、50倍以上のCO2吸収力があるとされている。
さらに、大気から直接、CO2を分離・回収する「DAC」などの技術と組み合わせ、CO2を有効活用する流れを創出する。
国内ではすでに、ミドリムシ由来のバイオ燃料を製造したり、遺伝子を組み替えた微生物を用いて高機能な繊維を加工したりする企業が注目されている。
回収したCO2を用いて微生物を介し、資源を生み出す技術開発が具現化できれば、温暖化対策と資源を生み出す一挙両得となると期待されている。
経済協力開発機構(OECD)は、バイオテクノロジーの世界市場規模が、2030年に約200兆円に達すると試算している。さらに大きく成長するとの見方もある。
日本は長年、しょう油や酒など微生物による発酵技術を活用したモノづくりの豊富なノウハウを持つ強みがある。水素細菌を使った脱炭素技術を世界に先駆けてビジネスに押し上げるには、政府による手厚い支援が必要となる。