世界の超富裕層の資産を管理…知られざる「ファミリーオフィス」の実態に迫る

    大富豪と言われるような超富裕層を対象に資産運用や資産管理を主に手掛ける「ファミリーオフィス」はベールに包まれた存在だ。デリバティブ(金融派生商品)取引で破綻した米国のファミリーオフィス「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」の問題で、初めてその存在を知ったという人も少なくないかもしれない。だが実は、海外では超富裕層の間で浸透しており、日本でも今後、普及していくとみられている。ファミリーオフィスとは何なのか。誰でも利用できるものなのか。シンガポールのファミリーオフィスに勤務する日本人唯一の公認会計士がSankeiBizの取材に応じ、素朴な疑問に答えてくれた。

    アジアの国際金融センターであるシンガポールのファミリーオフィスに勤務する日本人唯一の公認会計士がSankeiBizの取材に応じ、素朴な疑問に答えた(Getty Images)※画像はイメージです
    アジアの国際金融センターであるシンガポールのファミリーオフィスに勤務する日本人唯一の公認会計士がSankeiBizの取材に応じ、素朴な疑問に答えた(Getty Images)※画像はイメージです

    一族の繁栄のために尽くしてきた傭兵部隊

    「ファミリーオフィスの使命は資産を減らさないこと。リスクを管理し、確実に次世代に資産を継承していくことにあります。われわれはどの金融機関にも属さず独立・中立の立場を取っており、例えば自分たちで金融商品を売り、その手数料で稼ぐというようなことはしません」。こう語るのはシンガポールのファミリーオフィス「Providentia Wealth Advisory Ltd」(プロヴィデンティア)の宮本傑(すぐる)さん(40)。有限責任監査法人トーマツや税理士法人を経てシンガポールに渡り、日本人で唯一、日本の公認会計士有資格者として同国のファミリーオフィスに所属している。

    富裕層向けに資産管理、運用する金融機関といえばプライベートバンクがあるが、ファミリーオフィスはプライベートバンクと何が違うのか。

    宮本さんによれば、ファミリーオフィスはある一族のためだけにサービスを提供するプライベートバンクなのだという。弁護士や税理士、投資運用担当者などで構成され、大富豪ファミリーのニーズに基づき財産を保全。資産運用から会計税務、相続税対策、ひいては教育や医療に至るまで、一族が必要とするありとあらゆるサービスを提供する。まさに読んで字のごとく、大富豪の一族のための「ファミリーオフィス」である。「究極のプライベートバンク」とも言われるゆえんだ。

    宮本さんが所属するプロヴィデンティアは、アルゼンチンのベンベルグ一族のためのファミリーオフィスだ。管理資産は約288億ユーロ(約3兆7500億円)に上る。1827年にドイツ・ケルンで生まれ、1850年にアルゼンチンに移住したオットー・ピーター・フリードリッヒ・ベンベルグ氏が繊維製品や穀物の輸出入会社を設立。後に息子のオットー・セバスティアン氏と一緒に醸造・瓶詰工場を開設し財を成したという。プロヴィデンティアの前身となるファミリーオフィス「QUILVEST」は過去170年間にわたり一族の資産を管理してきた。

    宮本さんは「一族のお金を守るというのは、その一族の事業を理解したうえで信頼してもらい、相続も事業承継も考えながらサービスを提供しなければなりません」と強調する。一族の未来永劫の繁栄のために尽くす存在。宮本さんは「ベンベルグ家のための傭兵部隊」と評する。

    ファミリーオフィスには1つの一族にサービスを提供するシングルファミリーオフィスと、複数の一族にサービスを提供するマルチファミリーオフィスがある。プロヴィデンティアはベンベルグ一族のシングルファミリーオフィスとして150年以上の歴史を刻んだ後、十数年前にマルチファミリーオフィスへと業務を拡大。さらに2020年4月にMBO(経営陣による自社買収)によりシンガポールオフィスは独立した。

    意外にも多かった日本人の利用者

    聞けば聞くほど、ほとんどすべての日本人にとっては無縁の存在のように思える。何兆円もの財を築ける人なんぞ、そうはいまい。だが、さにあらず。意外にも、日本人の利用者も少なくないのだという。どんな人がファミリーオフィスを利用しているのか。

    「資産運用額については最低金額2億円くらいからスタートできます。IPO(新規株式公開)を実現した創業者やM&A(企業の合併・買収)で事業売却した後の売却資金で始める日本人の方も多いです」と宮本さん。

    年末ジャンボ宝くじの1等は前後賞合わせて10億円、スポーツ振興くじ(サッカーくじ)のメガビッグならキャリーオーバー時に1等最高12億円が当たるチャンスがある。もし宝くじに当たれば、ファミリーオフィスの利用を考えてみてもいいかもしれない。

    もっとも、「10~50億円くらいでスタートする人が多いですが、中には100億、1000億以上の資産をお預かりしているお客さまもいます」(宮本さん)とのことなので、ファミリーオフィスのメインユーザーはけた違いの大富豪であることに変わりはない。


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