「コロナで使い道がなくなった」超大型機A380をエミレーツ航空が飛ばし続ける理由

    PRESIDENT Online

    これを報じるリリースで、エミレーツ航空CEOのティム・クラーク卿は「発着枠に制約のある空港での需要に効率的に対応し、私たちのネットワークの成長を強化する機会を与えてくれました」と述べている。

    後発のエミレーツ航空が混雑する各地の主要空港に乗り入れるには歴史あるエアラインと戦い、発着枠を獲得するしかない。ここに1機で多くの旅客が運べるA380が投入される理由がある。

    理由はそれだけではない。先述したAdnan Kazim氏の話にもあったが、地元政府の描く国家戦略と強力な後押しは大きい。今回のインタビューでAdnan Kazim氏は、ドバイワールドセントラル空港の拡張工事が2025年に完成する見込みだと教えてくれた。

    現在のドバイ国際空港は8600万人(2019年)が利用する世界4位の空港だ。ドバイワールドセントラルの機能向上した新空港は、1億6000万人が利用でき1200万トンの貨物を扱う世界屈指のハブ空港になる見込みだ。

    こうした支えもあり、エミレーツ航空のコロナ後を描く戦略は実に強気だ。

    2021年11月に開かれたドバイエアショーでは、恒例となっている大型商談はなかったが、好調な貨物需要を受け、ボーイング777貨物型機2機の新規発注と、ボーイング777旅客型4機を貨物機に改装する発注を行った。

    旅客機については、同社は既存の航空機A380(52機)とボーイング777-300ER(53機)の合計105機をプレミアムエコノミークラスを装備した最新仕様に改装すると発表した。新規発注済みの機材数を合わせると、数字上は、同社は480機ほどの大型機を持つ世界有数のエアラインになる。

    コロナ禍の先を見据えた小さな国のエアライン

    国土が広くもない、人口が多い訳ではない。その弱みを世界の人々をどの地域にも運ぶことのできる拠点にしたのは国の深謀遠慮であり、エミレーツ航空の慧眼けいがんだ。

    建国50周年を迎えたUAEは、次の50年をさらなる成長軌道に乗せるために、「Project of the 50′s」という国家戦略を定めた。先の9年間で5500億AED(17兆500億円)の予算を投じる。世界の優秀な人材の招致や輸出拡大、国内直接投資を含めあらゆる側面から経済を成長させる取り組みとなっている。政府の意向を忠実に経営に反映させていくエミレーツ航空もこの戦略に乗って進化を続ける。

    今や国内総生産(GDP)世界1、2位の米中エアラインが世界TOP3を占める。その上を行く戦略を着々と実行しつつあるエミレーツ航空が目指すのは、エアラインの世界一である。今回のドバイへの渡航は、それを実現しつつあるエミレーツの勢いを感じることができた。

    エミレーツ航空の次世代を担う新型機の初号機を手にするのは2023年の5月であり5年間かけて受領する。それまでは、現在の2機種を使い続けることとなる。ドバイの街に高層ビルのブルジュハリファ、人工島のパームジュメイラ、そしてアインドバイという観覧車などの世界一の建造物が多いように、王族国家は大きなものにこだわる。

    だから大型機を飛ばしているというわけでは決してなく、本稿で見てきたように後発エアラインだからこその苦悩と、地の利を生かした戦略、それにUAE政府の明確な国家戦略がエミレーツの強気な経営姿勢を支えているのだ(取材内容は2021年11月中旬時点)。

    北島 幸司(きたじま・こうじ)


    航空ジャーナリスト

    大阪府出身。幼いころからの航空機ファンで、乗り鉄ならぬ「乗りヒコ」として、空旅の楽しさを発信している。海外旅行情報サイト「Risvel」で連載コラム「空旅のススメ」や機内誌の執筆、月刊航空雑誌を手がけるほか、「あびあんうぃんぐ」の名前でブログも更新中。航空ジャーナリスト協会所属。



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