旅客需要が激減し、エアライン各社は超大型機エアバスA380の使い道に頭を抱えている。だが、中東・ドバイを拠点とするエミレーツ航空は異なる。航空ジャーナリストの北島幸司は「エミレーツ航空はコロナ禍でも超大型機を飛ばし続けている。その理由を探ると、小さな国のエアラインという特別な事情が見えてくる」という――。(PRESIDENT Online)
/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/BPBBMBK2IFHSRHANUST4DHGQXY.jpg)
超大型機に頭を抱える世界のエアライン
新型コロナの影響で世界中の人の動きが封じられ、どのエアラインも厳しい経営を強いられている。その中で、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイを拠点とするエミレーツ航空は他社と逆を行く戦略を続けている。
コロナ禍の人流減少で、大型の機体は一転して厄介な存在になった。世界で一番大きな総2階建ての旅客機「エアバスA380」はエアライン14社で導入されている。だが、大きすぎるがゆえにそのほとんどを運航停止させ、砂漠の空港などで13社が長期保管したままでようやく少数機数が定期便に戻りつつある状態だという。
全日空(ANA)も、ホノルル線に向けに2016年に導入を決めた3機を保有している。コロナ禍で納入されたが定期就航のめどは立っておらず、経営の重しとなっている。
コロナ禍でもこの超大型機を飛ばし続けているのがエミレーツ航空だ。同社が保有する118機の機材のうちおよそ半数の58機を継続運航させている。
なぜ乗客数が激減するなか、大型機を飛ばし続けているのか。本稿では、エミレーツ航空の狙いについて掘り下げてみたい。
エミレーツ航空の大型機志向の根底にあるもの
まずはエミレーツ航空の経営状況からみてみたい。最新の2022年3月期中間決算において売上高6727億円をあげ、前年同期比+86%となった。純損失は1798億円となり、前年同期3906億円の純損失に比較して大きく改善した(1AED=31円換算)。これは、欧米市場の移動需要が戻ってきていることを意味する。エミレーツ航空の上級クラスを利用する世界の富裕層は、移動に積極的だと言える。
世界のエアラインを眺めると、輸送力を伸ばしているのは米中勢だ。これは国土の広さと人口規模が大いに関係している。そして、両国とも国内線の比率は高い。対してエミレーツ航空の本拠地、UAEの国土は、8万3600平方キロメートルで面積は北海道と同じ程度だ。本来であれば、じり貧になってもおかしくない。
人口は約1000万人。これも日本の人口の12分の1で東京都より少ない。首長国別に見れば、ドバイは4110平方キロメートルで徳島県ほどの大きさであり、UAE全体の面積の5%でしかない。人口にしても333万人とUAEの3分の1だ。
この集客の弱みを強みに変えるために「世界の人の長距離移動にドバイ空港を介在させる」確固たる戦略を作り上げた。それが、世界中の人を一度ドバイに集めて目的地まで乗せ換える「ハブアンドスポーク」だ。
これが大いにハマった。UAEは首都アブダビと経済都市ドバイの両都市間は140kmほどだ。航空機を飛ばす距離ではない。そのためエミレーツ航空には国内線は無く、比較的収益性の高い国際線のみの路線構成なのだ。
また、米中のように国土の広い国ではハブ空港は複数必要となるが、UAEのように規模が小さい国であれば、最重要拠点だけを強化すればいい。ここにエミレーツ航空の真骨頂がある。世界中の人に搭乗してもらう機会を増やすために大きな機材でゆったり旅をしてもらおうとしたのだ。これがエミレーツ航空の大型機志向の根底にある。
路線に合わせた航空機材は2機種に絞った
エミレーツ航空はこのハブアンドスポークの戦略を最大限に生かせる機材を選定した。それは30年ほど前にさかのぼる。湾岸戦争で世界経済が落ち込んでいた1992年。エミレーツ航空は7機のボーイング777を発注し、大型機の導入に踏み切った。