デフレのはずが…日本で起きる「長期的」物価上昇 88品目が年率2%超値上がりで家計圧迫

    日本経済低迷の病巣として物価上昇の鈍さが問題視されてきたにもかかわらず、食品を中心とした生活に身近な品目では長期的な物価上昇が続いている。総務省が先月発表した昨年11月の消費者物価指数を品目別にみて10年前と比較すると、サンマやイカは2倍超に値上がりした。牛肉、豚肉なども加えた88品目の価格が日本銀行が示す物価上昇率目標である年率2%を上回るペースで上がっており、家計を圧迫している。直近の動きをみても食品や燃料価格は値上がり傾向で、生活者の暮らしには逆風が吹く。頼みの綱である賃上げも大幅アップは期待薄で、消費の冷え込みが不安視される。

    デフレに苦しむ日本経済でも食料品は長期的な物価上昇が続いている(Getty Images)
    デフレに苦しむ日本経済でも食料品は長期的な物価上昇が続いている(Getty Images)

    魚介類は年3%、肉類は年2%の上昇率

    「上の子が小さかった10年ほど前はイクラを食べさせることがよくあった。でも今はとても買う気にならない」。東京都内で暮らす40代の女性は子育て期間中の物価上昇を肌で感じている。

    消費者物価指数で計測対象となっている全582品目の中で、2011年11月にも調査項目に含まれていた509品目のうち実質的に最も価格が上がったのはサンマで、2.5倍に値上がりした。次いでイカの2.2倍。イクラはそれに次ぐ3番手で価格は2倍になった。10年で2倍の物価上昇は年率に換算すると7.2%に相当する高騰ぶりだ。魚介類29品目をまとめた上昇率は年率3.1%に及ぶ。

    価格が上がっているのは魚介類だけではない。輸入牛肉の価格は10年で1.7倍となっており、年率5.5%の上昇率。国産豚肉は年2.6%の値上がりペースで、10年で価格は1.3倍になった。比較的安価な鶏肉でさえ、年1.1%の価格上昇が続いてきた計算になる。肉類9品目としては年率2.0%の上昇だ。

    消費者物価指数は消費税を含めて算出されており、指数の上昇には2014年と2019年の消費税率引き上げの影響がある。ただ、食料品を中心とした値上がりは「物価が上がらないデフレ日本」のイメージを裏切る実態だ。

    また、公立高校の授業料はサンマを上回る物価上昇を記録している。民主党政権(当時)が公立高校の授業料無償化を実施していた10年前と比べ、現在は17倍の水準だ。政策変更という特殊要因の影響とはいえ、やはり家計の負担が増したことに変わりはない。

    1年前との比較でも値上がり続々

    もちろん消費者物価指数からは大きく値下がりした品目も見つかる。代表格は携帯電話の通信料で10年前より6割も安くなった。他にも4割減の冷蔵庫や洗濯機、2割減の電子レンジなど家電製品が目立つ。また、2019年10月からの幼児教育無償化の影響で、保育所の保育料も6割減少となっている。

    このため品目ごとの物価の上昇と下落、さらに支出の多さなども勘案して算出する総合指数は10年前と比べて、6.3%の上昇に留まっている。年率では0.6%にあたる計算だ。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は「日本の物価は外食などのサービス価格が上がっていないことにも特徴がある。消費税率引き上げの影響が10年前との比較で5%程度あることを考えれば、全体としての物価の実体はほとんど上がっていないという結果になる」と話す。

    とはいえ、政府や日銀から繰り返される「物価上昇が鈍い」との発言は、毎日の食卓に上がる魚介類や肉類の値上がりに直面する生活者の実感からは遠い。日銀が物価上昇の目安としている年率2%の物価上昇率を上回る品目は、公立高校の授業料を含めて88品目あり、決して少ない割合ではない。


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