新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染が拡大する中、政府や地方自治体が企業に対し、従業員の欠勤に備えた事業継続計画(BCP)の作成や点検、見直しを求めている。コロナ流行前から感染症対策版を導入していた企業がある一方、手が回らず対応が追い付いていないケースも。すでに感染拡大に備えた態勢を整えているとして、現状の対応を続ける企業も少なくない。
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「超簡易版」作成を支援
山際大志郎経済再生相は13日、経団連など経済3団体トップとのテレビ会議で、企業に対しBCPの見直しを要請した。経団連の十倉雅和会長は「会員企業にテレワーク活用を含むBCPをしっかり行うよう呼びかけた」などと応じた。
自然災害のリスクの高まりを受け行政は企業にBCP策定を呼びかけてきた。最近は自治体がコロナ対応のBCP作成を支援する動きもある。
大阪府が昨年1月から府のホームページで公開しているコロナ版「超簡易版BCP『これだけは!』シート」は、ダウンロードした企業側が書き込んで完成させる。通常版の策定は数日から数カ月要するが、項目に沿って記入すれば1時間程度で完成する。
監修した大阪市新型インフルエンザ等対策有識者会議委員の松井裕一朗氏は「自社の社員が感染しなくても、加工の委託先や運送会社などでクラスター(感染者集団)が起きればサプライチェーン(供給網)が断絶され、事業継続が困難になる」とし、BCP策定の重要性を強調する。
組み合わせて出社率抑える
企業側は、大幸薬品が平成19年、新型インフルエンザ対策として感染症に特化したBCPを策定。他企業にも活用してもらえるよう公開してきた。コロナ禍では、このBCPに加え、感染状況に応じて出社比率を5段階に分ける勤務形態を組み合わせて対応中。
同社の担当者は「生産体制の再構築などで余裕がなく、コロナに特化したBCPは策定できていない。ただ、従来のものをアレンジすることで対応できている」と語る。
蔓延(まんえん)防止等重点措置が適用された広島県に本社のあるマツダは、昨年12月にいったん緩めた対策を1月9日から再度強化。全国の事業所の事務や開発系職員の出社率を50%以下から30%以下に抑えるよう指示し、出張やイベント、会食なども原則禁止とした。
同社によると今も広島では毎日10数人程度の感染者が出ており、「社内の警戒感もこれまで以上に高まっている」(同社)。最大の懸念は製造現場での感染拡大で、工場を停止せざるを得なくなったときの対応についても検討を開始した。
悩ましいのは感染力が強いオミクロン株に対して、取れる対策が限られている点だ。同社でも一般的な対策はすでに導入しており、担当者も「従来の対策の徹底を呼びかけ続けるしかない」と話す。
ほかにもNTTや三菱電機、SMBC日興證券が重点措置の適用地域で出社率の上限を設けたという。
和歌山市が本店の地方銀行、紀陽銀行は2月、取引先などの医療機関向けにBCPに関するセミナーを開き、専門家が「感染症クラスターへの備え」をテーマに話す予定。同行の担当者は「業務量の多さもあり、コロナ向けのBCPを策定している医療機関は少ないようだ。地域のレジリエンス(回復力)向上のため開催する」と説明する。
従来の対応継続も
一方で、ウィズコロナの働き方が定着していることから、感染動向や政府の動きを見定めようという企業も少なくない。
味の素の担当者も「現時点でオミクロン株に対して特段の対応はとっていない」と話す。
同社は今も昨夏の第5波で取っていた対策と変わらぬ対応を続けており、本社の出勤率も2、3割程度。たとえ感染が拡大しても、在宅勤務で業務継続は可能だという。
製造現場での感染拡大懸念はあるが、昨夏にタイの工場で感染が広がった際、生産縮小に追い込まれた経験から「一定割合が休んでも生産を続けられる態勢はすでに整えている」としている。(井上浩平、蕎麦谷里志)