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「格別においしいわけじゃない」フランス産ホワイトアスパラが1キロ5000円で売れる理由

PRESIDENT Online

フランス産ホワイトアスパラガスは1キロ5000円という高値で取引される。民俗学者でレンコン農家の野口憲一さんは「美が連想されるフランス産の野菜はそれだけで価値がある。逆に『100円くらい』と思われている小松菜にはそれくらいの価格しかつかない」という--。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nobtis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nobtis

※本稿は、野口憲一『「やりがい搾取」の農業論』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

「チョコレート」という商品名のチョコはない

農産物の話に入る前に、別の食品の販売方法についてお話しします。まずお菓子売り場を思い出してみてください。お菓子売り場では、チョコレートはどのようなパッケージや商品名で販売されているでしょうか? 中身が完全に透けて見える包装形態で販売されているお菓子がどれくらいあるでしょうか? 透明な包装紙で販売されている食品と言えば、麩菓子などがあるかもしれません。しかし、昭和の代表的な駄菓子である黒糖をまぶした麩菓子を、スーパーやコンビニの店頭で見かけることは少なくなっています。

また、チョコレートが「チョコレート」という単一商品で、グミが「グミ」という単一商品として販売されている売り場は存在するでしょうか? そんなところは存在しない。チョコレートやグミには、商品分類とは別に必ず商品名が書かれているはずです。

商品名だけではありません。例えばブドウのグミであれば、メーカーやブランドのロゴ、瑞々しいブドウのイメージ写真、キャッチコピー、ブドウ果汁を何パーセント使用したかといったような成分構成まで、様々な情報が書かれています。消費者は単にグミをグミとして消費しているのではなく、このような情報をセットで購入しているのです。

野菜に保証されているのは商品性と生産地だけ

しかし、そういった売り方は野菜では必ずしも一般的ではありません。そもそも商品名を付けて売られていないことが大半です。ほとんどのキュウリは「キュウリ」として、玉ねぎは「玉ねぎ」として販売されているからです。

もちろん、野菜にもこういった情報が全くないかというと、そういうわけではありません。例えば野菜には生産地表示やJAマーク等が存在します。JAは日本農業協同組合のロゴですが、消費者に一種の安心感をもたらす記号として機能しています。しかし、他の商品と比べれば、消費者に提供している情報量が圧倒的に少ないことは否めません。

そもそもキュウリや玉ねぎ等は、袋に小分けされて販売されることが一般的です。その袋は透明で、商品情報は何も書かれていない。それどころか、生産者から届いた箱のままでばら売りされていることもよくあります。このような単なる透明袋で販売されている野菜において保証されているのは、玉ねぎやキュウリであるという商品性と、生産地だけです。食品であるにもかかわらず、美味しささえ保証されていないのです。

時代遅れな農産物の販売方法

他の食品であれば、消費者が商品の情報を消費するなどというのは、常識中の常識です。例えば、1981年に生まれた私が小学生の頃は、ビックリマンチョコがはやっていましたが、この商品を買っていた子供たちのほとんどは、ウエハースチョコレートそのものには興味がありませんでした。というより、食べずに捨てていた子もいました。欲しかったのは、ビックリマンシールに描かれた「情報」だったのです。

他の食品においては、「食品」の概念さえも変更しなければならないような消費のされ方をしています。例えば、コカ・コーラゼロに代表されるゼロカロリー食品を考えてみてください。コカ・コーラゼロが日本で発売されたのは2007年。それまで発売されたダイエットコークなどとは異なり、日本社会に大きく受容され、そして定番商品として定着していきました。

それどころか、13年にサントリーから発売されて大ヒット商品となった「伊右衛門 特茶」のように、体内においてカロリーが機能しないこと、すなわちマイナスカロリーを積極的に謳う商品さえ当たり前になりました。サントリーの「特茶」は特定保健用食品と呼ばれますが、似たような分類である機能性表示食品の定着から分かるのは、人々が食品に対してカロリーや栄養を求めるだけではなくなっている、という事実です。

これらの事例を見れば、農作物の販売方法がどれだけ時代に取り残されているかが分かるはずです。野菜に限って言えば、情報を消費するどころか、いまだに大半の商品が栄養摂取の範疇(はんちゅう)さえ乗り越えていないのです。

品種名や作用が書かれている農作物はまだまだ少数

「野菜や果物はコーラやお茶のように成分調整などできないでしょ?」と思う方もいるかもしれません。しかし、今や農業界では、イチゴやトマト等には葉に糖を与えたり、根っこに食用の酸の成分を与えたりして味の調整をするのは全く珍しいことではありません。自動天窓、重油暖房や冷房を用いた温度調整、電照を用いた日光・温度補正、機材を用いた光合成の促進等は、農家にとってはごく当たり前のことです。

イチゴやトマトでは、葉が光合成をすることで糖分を作り出すため、梅雨時のように雨が続き温度が低い時期には甘みが乗りません。甘みを重要視する品目においては、糖度が足りない商品は致命的です。一方、甘いだけの作物に重層的な味わいを持たせようとする時、酸味を加えるのは有効な手立てです。このため、敢えて酸を吸わせたりもするわけです。

私は、これらの作業を批判するつもりは毛頭ありません。消費者の求めに応じられなければ商品が売れないのはどの業界でも一緒だからです。私がここで指摘したいのは、農作物においても成分調整はもはや常識なのに、小売の現場では価格と生産地以外には大した情報が書かれていない、ということです。

それでもイチゴ、トマト、ブドウなどの品目は品種名や商品名などが書かれていることが多くあります。また、ブロッコリースプラウト等ではスルフォラファンの作用(抗酸化・解毒機能)などが謳われていることもあります。しかし、このような事例は農産物全体で言えば圧倒的に少数なのです。

小松菜がどのスーパーでも1袋100円前後である理由

そもそも、日本の農産物が1袋100円くらいで販売されている理由は何でしょうか? 例えば小松菜。1袋100円ぐらいで販売されている安値安定野菜の代表格です。台風が来たり、天候不順などの理由で相場が急騰しない限り、大体このくらいの値段です。皆さんは、この小松菜の価格の理由を説明できるでしょうか?

と、聞いておいて怒られそうですが、このことに明確な理由はありません。強いて挙げれば、「みんなが100円ぐらいだと思っているから」です。

まず生産者が、大体そのくらいが適正な値段だと思っています。スーパーのバイヤーも、大体そのくらいの売価が適正だと思っている。最後に消費者も、このくらいの値段が妥当だと思っている。要するに、どの立場の人もみな、100円ぐらいが普通だと思っているのです。

こうして、小松菜の値段は1袋100円ぐらいだという相場観が成立します。最初にその相場観を作ったのは誰なのか、それは分かりませんが、相場観はそんなことはお構いなしに維持・更新され続けています。

「結局何にも分からないじゃないか」と言われそうですが、私が言いたいのは「野菜の価格の決まり方なんて所詮はその程度でしかない」ということなのです。小松菜を1袋1000円で販売しようという試みを、寡聞にして私は知りません。

「アホか。単なる野菜でしかない小松菜が1袋1000円で売れるわけがないだろ!」とお思いになるでしょうか? でも、「1袋1000円の小松菜」のような商品が、他の野菜では存在しているのです。


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