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【学芸万華鏡】歌会はなぜ楽しい アイドルやホストも参入、コロナ禍の短歌ブーム

会員制交流サイト(SNS)で広がる若者の短歌ブームが、出版界にも押し寄せている。短歌の歌集は数百部の自費出版が一般的だ。しかし、最近は1万部の商業出版が珍しくない。新型コロナウイルス禍でヒットした歌集もある。アイドルやホストが短歌を詠む歌会を開き、その成果を書籍化する動きも。歌会はなぜ楽しいのか。盛り上がるブームの背景を探った。

女性アイドル4人らが出演した「アイドル歌会@詠い納め」。「無記名でも誰の短歌か分かる」と好評だった=令和3年12月28日、東京・池袋(短歌研究社提供)
女性アイドル4人らが出演した「アイドル歌会@詠い納め」。「無記名でも誰の短歌か分かる」と好評だった=令和3年12月28日、東京・池袋(短歌研究社提供)

ツイッターで応援

わずか31文字に、共感や応援する気持ちを込める。

「その半分でも引き受けてあげたい」「世界中を敵にしても僕は君の味方」

〝文春砲〟を昨秋に浴びるなどした女性アイドルグループ「ZOC(ゾック)」メンバー、巫(かんなぎ)まろさんの上の句「炎上ではりさけそうなこの心」に、ファンがツイッターで次々と下の句を返す。

昨年12月28日、東京・池袋のホールで開かれた「アイドル歌会」には巫さんら女性アイドル4人が選者らと出演。短歌が古代から恋愛や社交のツールだった歴史を彷彿とさせた。

「円陣をもう組むことのないグループに あけおめLINE送るべきかな」

所属グループ解散を詠んだ播磨かなさんには、「経験が歌に出てて最高エモかった」といったメッセージが寄せられた。

古典の和歌と異なり、今自分たちが使っている言葉で作り、声援がなくてもSNSと拍手で静かに「エモい」を共有できる。コロナ対策が取られた会場はほぼ満席、ライブ配信視聴チケットも220枚が売れた。アイドル歌会は出版社の短歌研究社が昨年7月から計3回開催。同社は歌会の書籍化とレギュラー開催を目指す。

出版不況でも上げ潮

インターネット上の短文で交流するSNSには、短歌と通じる部分がある。

コロナ禍に直面する東京・歌舞伎町のホストの素顔が評判を呼んだ歌集『ホスト万葉集』。編者の一人で若手歌人の小佐野彈さんは、ホストが客にLINE送信するメッセージについて「短い文章の中にパワーワードがガッと詰まってて、すごいうまい。だから彼らが歌を詠めないはずがない」と述べている。

同書は歌舞伎町ホストによる2年間の歌会から選歌して令和2年7月に出版、1万部のヒットとなった。

出版不況の中、短歌界は上げ潮モードだ。月刊誌『短歌研究』3年5月号は昭和7年の創刊以来、90年の歴史で初の重版となり注目を集めた。歌人300人がコロナ禍を連想する「ディスタンス」をテーマに詠んだ新作を掲載していた。

短歌ブームを牽引する若手歌人の歌集では、出版社がコストを負担する商業出版も少なくない。例えば木下龍也さんは、平成30年1月に出版した岡野大嗣(だいじ)さんとの共著『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』が昨年までに7刷計1万5000部。単著『あなたのための短歌集』は昨年11月の発売直後に重刷、計7500部と好調なスタートを切った。

短歌集がなぜ売れるのか。背景には、自ら短歌を作る若者の増加がある。

「一過性で終わらず」

現代口語短歌は、昭和62年に出版された俵万智さんのミリオンセラー『サラダ記念日』をきっかけに大ブームが起きた。だが当時、短歌を発表する場は同人や結社と呼ばれるグループの短歌誌か、新聞への投稿が主流。結社と新聞は主宰者や選者がおり、掲載へのハードルが高い。ブームは収束したかにみえた。

インターネットが普及すると、短歌投稿サイトが相次いで開設。国内でツイッターが普及した平成21年には、歌人が発表するツイッター短歌が話題になった。

SNSの中でも140文字の制限があるツイッターは、短歌と親和性が高いとされる。ここ10年はツイッターやインスタグラムで自作を発表する若者が増え、詠み手の拡大に伴い若手歌人が続々と登場していた。

歌集を手掛けるナナロク社の村井光男社長は「SNSをきっかけに短歌を詠む20~30代が増えている。定型があることで始めやすく、発表もSNSで自らできる。俳句より多い文字数は内容を展開しやすい。才能ある若い書き手も多く、一過性のブームで終わることはない」と話す。

データ分析「ヴァリューズ」(東京)の消費者行動実態調査によると、コロナ禍で接触時間を増やしたSNSはインスタグラムとツイッター。いずれも第1回緊急事態宣言の令和2年4~5月にユーザー数を伸ばしたという。「歌を詠む」文化はSNSを通じて現代に定着するのか。コロナ後の展開が注目される。


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