日産自動車は千葉市美浜区の幕張メッセで16日まで開かれたカスタムカーや関連部品の見本市「東京オートサロン2022」で、5人乗りバン「CARAVAN(キャラバン)」の内装を自宅のリビングのように改造したコンセプトカーを展示した。「部屋を作ろう」というアイデアが元となっただけに、デザインの担当者は「自動車会社らしくないものを作る」ことに苦労したと明かす。背景には新型コロナウイルス禍で旅行への意識が一変したことがあり、キャンピングカーのように旅先で非日常を体験するスタイルとは異なる、日常とつながりを保ったままの新しい旅の形を描いている。
バックドアを開くと、目に飛び込んでくるのはソファ、マットレス、木目調の壁。棚の上部からは間接照明の柔らかい光がこぼれる。どことなく和の雰囲気が漂う空間はいかにも居心地が良さそうで、おしゃれなリビングだと錯覚してしまいそうだ。少なくともバンの2列目シートから後ろを改装した「移動する空間」だとは思えない。
しかも備え付けのインテリアは可動式。横長のテーブルを回転させて壁に収納したり、跳ね上げ式のマットレスを壁側に立てかけたりしてスペースを広げることもできる。背もたれを倒して平らにしたソファとマットレスをくっつければベッドになって、大人2人が横になれるサイズがある。
この不思議な車「CARAVAN MYROOM CONCEPT」のデザインを担当したのは日産グローバルデザイン本部アドバンスドデザイン部の大野孝宏さん。自動車のデザインでは車内の空間は凹凸のある曲線で囲まれがちだが、「内側にできた曲線を取り除き、水平、垂直の直線が直角に交わる生活空間の家具のように見せることを意識しました」という。曲線で囲まれた車内を直線的なインテリアで覆うと、その分だけ空間が狭くなるため、車内に設けた壁にスリット(隙間)を作ることで圧迫感が出ないように工夫を凝らしたという。
大野さんが描いたのは、いかにして車内を、いつも暮らしている部屋のように感じてもらうかというコンセプト。「自動車の会社なのに、自動車会社らしくないものを作る」(大野さん)というミッションとなるだけに、周囲との議論は絶えなかったという。
その一例が「ソファに肘掛けをつけるかどうか」という問題だ。大野さんは「肘掛けはいらない、と何度も言われましたが、肘掛けのないソファは、ぱっと見で車のシートそのものに映ります。直感的に『ここは自宅のリビングではなく車の中だ』と感じさせないためにも、ソファは肘掛けありでいきたいと守り通しました」と振り返る。
他にも、後部座席のシートベルトをドアと内装の隙間に設置して停車中は目に入らないようにしたり、棚板などの厚みを一般的な家具に近い1.8センチメートルに合わせたりして、自宅にいるような感覚を呼び起こす細かい仕掛けを施した。運転席と2列目の座席の間を白い幕で分割したのもそうした目的のためだ。このアイデアは、夜になれば白い幕にプロジェクターで映像を投影できるという副産物も生まれ、一石二鳥になったという。