名物は「羊の脳みそバーガー」…反米イランにある“マシュドナルド”の意外な人気ぶり

    PRESIDENT Online

    反米国家のイランには、アメリカのファーストフードチェーンの正規店は存在しない。ただし、首都・テヘランにはマクドナルドを模した「マシュドナルド」という店がある。共同通信社の新冨哲男記者は「店主は『俺はマクドナルドに首ったけなんだよ』と話していた。実のところ、米国文化をこよなく愛するイラン人は少なくない」という--。

    テヘランにあるマシュドナルド。中央にいる男性が店主のハッサン・パドヤブさん。 - 写真=平凡社提供
    テヘランにあるマシュドナルド。中央にいる男性が店主のハッサン・パドヤブさん。 - 写真=平凡社提供

    ※本稿は、新冨哲男『イラン「反米宗教国家」の素顔』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

    「強面」のイメージとは異なるイランの素顔

    中東の世俗的な親米王政国家を、政教一致の反米イスラム国家に塗り替えた1979年のイラン革命は、世界に激震を走らせた。

    西洋的な価値観を痛烈に指弾する宗教指導者、漆黒のベールで全身を覆った女性。従来からイランという国名を耳にすれば、そんな群像が想起されることが多かったのではないか。

    1980年代はイラン・イラク戦争が泥沼化した。2000年代以降はブッシュ米政権に「悪の枢軸」と名指しされ、核問題の表面化で経済制裁を科された。

    一連の出来事はいずれも、イランの「強面」のイメージを増幅させた。しかしながら、革命から40年超が経過した現代イランの実像は、そうしたステレオタイプな見方とは随分異なっている。

    最近の情勢緊迫のせいもあり、世の中にぼんやりとイラン脅威論が漂っている中、正しい理解に向けた努力は意味を増している。本章では、私が駐在生活の中でじかに見たイランの素顔を紹介したい。

    マクドナルドではなくて、マシュドナルド

    爽やかな秋のランチタイム、テヘラン西部の街頭にハンバーガーの焼ける香ばしい匂いが漂っていた。空き腹を抱えた客が吸い寄せられていく店頭には、赤のベースカラーにお馴染みの黄色い「M」のマークが浮かぶ。レジ前の広告ポスターの中で、ピエロのマスコット「ドナルド」がおどけたしぐさを見せていた。

    2017年11月。もはや説明の必要がないほど既視感は明白だったが、一見して何かがおかしかった。これでもかと言うぐらいに何カ所も掲げられた店名には「MashDonald’s」とあった。マクドナルドではなくて、マシュドナルド。でもあまり目立たない場所に、ちゃっかり「McDonald’s」と綴ってあるのは見逃せない。

    アメリカの文化は「大悪魔」だが…

    マクドナルドはおろか、ピザハットもサブウェイもイラン国内に正規店は存在しない。背景には、米国がイラン核問題関連の制裁とは別途、ミサイル開発や「テロ支援」を理由に科してきた対イラン制裁があった。これは米企業に原則、イランに関わる貿易・投資を禁じる内容だった。それに加え、イランのイスラム革命体制も「大悪魔」と呼ぶ米国の文化を拒絶してきた。

    実のところ、米国文化をこよなく愛するイラン人は少なくない。繁華街の露天商を訪ね歩けば、ハリウッド映画作品の海賊版DVDの需要がいかに高いかが分かる。

    電気街には米アップルの店舗「アップルストア」と見紛う店舗があふれ、第三国経由で調達したiPhone(アイフォーン)が正規価格を大幅に上回る値段で売れていた。米国型の大量生産・大量消費社会を象徴するファーストフードが垂涎の的となるのは、火を見るより明らかだ。

    「心のこもったもてなしに惚れちまった」

    ピザハットならぬ「ピザホット」、サブウェイと思いきや「サブライム」。テヘランの市街地には、本物そっくりの飲食店が少数ながら看板を掲げ、控えめに営業していた。

    ネームバリューにあやかった荒稼ぎが目的と推察されたが、反米国家で如才なく立ち回るのは至難の業だ。関係当局のプレッシャーは凄まじく、気付いた時には忽然と姿を消している店舗も珍しくなかった。

    そうした困難な獣道を、テヘランのハンバーガー店「マシュドナルド」は反骨精神だけで歩んできた。極太のわし鼻に、鋭い二重まぶた。これは偽物ではないというレイバンのサングラス。アウトローな雰囲気をぎらぎらと漂わせる店長ハッサン・パドヤブ(67)は、シンプルに語った。「心のこもったもてなしに惚れちまったんだ」


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