出会い系サイトも詐欺事件の代表例の一つでしょう。数年前まで、出会い系サイトはサクラが公然と行われていました。なんとバイト募集までしていたのです。バイトで雇われた人たちは、サイト上で愛を囁(ささや)いたり猥褻(ひわい)な会話をしたりして相手に利用料を支払わせるのです。私に被害相談に来たのは、80歳近いお爺さんでした。息子さんがお爺さんの首根っこを掴(つか)んでやってきました。サイト上のやり取りはこうです。まずは40代の女性を名乗る人物がこう切り出します。
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お爺さん「どうしても会いたい。会いに行く」
「私は、癌(がん)に侵されています。余命いくばくもありません。誰か話し相手になってくれませんか?」
お爺さんはこの女性を励ましました。悩みも聞いてやりました。1カ月、2カ月、3カ月…。やがてお爺さんの心に変化が生まれました。
「す、す、好きです!」
お爺さんは女性に告白をしました。お爺さんの決死のアプローチが届いたのか、女性も「私も…好きです」と応えてくれました。こうなったらお爺さん、30年くらい若返ってしまいます。
「会いたい…!」。そうメールしました。しかし彼女ははぐらかします。お爺さんは相変わらず彼女の癌の悩みを聞きながら、何度も何度も「会いたい。会えないかな?」とアプローチを続けました。
そのたびに、彼女は「けど…私恥ずかしい」とはぐらかし続けます。我慢の限界を超えたお爺さん、「どうしても会いたい。会いに行く。住所を教えてほしい」と訴えかけました。すると翌日女性から返事が…。
「すいません、癌が再発してしまいました。入院です。しばらく連絡取れません」
こんなイタチごっこみたいなやり取りが2年も続き、被害総額は2600万円に上りました。私はこの出会い系サイトを運営する会社に出向いて、ドア越しに室内を覗(のぞ)いてみましたが、20代から30代くらいの男性だらけでした。頭にタオルを巻いて、気怠(けだる)そうにひたすらパソコンのキーボードをカタカタさせていました。シュールな光景です。私は訴訟を勧めましたが、お爺さんのご家族が訴訟を嫌がり、結局、粘り強く示談交渉を行いました。
結果、被害金のうち、1500万円までは取り返すことができましたが、1100万円は諦(あきら)めざるを得ない状況となりました。
人間の弱さにつけこむのが、詐欺です。強くあれ、などとは言いません。ただ、弱さを見せるのはキホン、信じられる人にだけにしましょう。他人に弱さを見せるのは慎重に。