小さな自動車メーカーに灯る矜持の火
スバル開発者の自信の背景には、「WRX」が持つユーザー特性もある。歴史のある車種ブランドであれば、どうしても時代とともに購入年齢層も高齢化する傾向にあるものだが、「WRX」の場合は20代後半から30代半ばの若者に長年売れ続けているという特色がある。新奇を追ったデザインでも、若者であればむしろ受け入れられる素地がある。実を言うと、筆者も20代後半で新型「WRX」をローンで購入した一人だ。
独自路線を追求するスバルだが、自動車業界は今、「100年に一度の大変革期」と言われる。その前では逆らえない現実もある。高性能なスポーツモデル「WRX STI」も、燃費などの環境課題により発売が危ぶまれている。
「純粋な内燃機関を持つ最後の自動車になるかもしれない」
実際、スバルの開発陣はこんな危機感を抱き、今回の新型「BRZ」や「WRX」に技術の全てを注ぎ込んだという。
「カーボンニュートラルの時代、WRXの未来はどうなるか分からない。電動化か、それとも水素なのか。はたまたガソリン車が残るのか。その未来を決めるのはトヨタの豊田章男社長もおっしゃっていたとおり、お客さま次第だ。だからこそスバルは、お客さまのために最後まで『安心と愉しさ』を追求していく」
100年に一度の大変革期である。EV化が進むことで、失われるものもあるかもしれない。協業するトヨタグループが年間約1000万台を販売する一方で、約10分の1ほどの規模でしかない小さな自動車メーカーのスバルがそのアイデンティティーを完全に維持するのは難しい部分もあるだろう。だがそれでも、スバルの社員たちはまっすぐ前を見据え、愚直に車づくりを続けている。スバル関係者への取材を通じ、「スバルらしさ」はカーボンニュートラルの時代でも変わらないと確信した。
冬の夜空を見上げれば、ひときわ目立つオリオン座。それを目印に「六連星」(むつらぼし)を探す。明るい光の下では、小さな光の星々は見えにくいものだが、目を凝らすと星々はまたたき、存在感を放っている。