一流のファンドマネジャーは高い知能と幅広い知識を持っているとされる。ところが10兆円の資産を築いた投資家ウォーレン・バフェット氏は「投資というゲームでは、知能指数160の人間が130の人間に必ず勝つとは言えない」と述べている。その理由とは--。※本稿は、桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
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「能力の輪」という投資行動の指針
バフェットの投資に関する考え方を特徴づけるものの一つに「能力の輪」という考え方があります。
ある時、バークシャー・ハザウェイの株主総会に出席したサンフランシスコの投資家が、次のような噂についてバフェットに質問したことがあります。その噂というのは、バフェットが中国の国営石油会社ペトロチャイナの年次報告書を読み、極端に過小評価されていると判断するとすぐに同社の株式の1.3%を4億8800万ドルで取得、多大な利益を上げたというものです。
サンフランシスコの投資家は、会社を訪問したり、経営陣に電話をかけるといったこともせずに、なぜそんな大金を投じることができるのかが疑問でした。そこで、株主であれば誰もがバフェットに質問ができて、時間の制限なしにバフェットが答えてくれる株主総会に参加した折、本人に「なぜ年次報告書だけをもとに、投資できるのですか?」と質問をしたのです。
バフェットの答えはこうでした。「2002年と2003年に、年次報告書を読みました。誰にも相談はしていません。私がしたのは、ペトロチャイナの複数の事業の査定です」(『バフェットの株主総会』)
バフェットはエクソンや他の石油会社の案件でたくさんのことを経験し、豊富な知識を持っていました。そんなバフェットから見ればペトロチャイナの「価値」がいくらかを知ることは簡単なことであり、その次に「価格」を見て、「これは過小評価されている」となれば、会社を訪問することも、バフェットなら可能な経営陣と話すこともなしに「投資する」という判断は瞬時にできることだったのです。
これがバフェットのいう「能力の輪」です。
IT企業への投資を長年避けてきたバフェット
自分にとって詳しい分野があり、その業界の企業について正しい判断ができる能力があればその能力の輪の中で投資を行う。一方、自分がよくわからない分野については、いくら株価が魅力的であろうが、人気の銘柄であろうが、安易に手を出してはいけない。それが、バフェットのいう「能力の輪の中で」という意味です。
今でこそバークシャー・ハザウェイの保有銘柄の1位にはアップルが君臨していますが、バフェットは「能力の輪の外にある」として長くIT企業への投資を避けてきました。そのため周囲から揶揄(やゆ)されることも少なくありませんでしたが、そんなことを気にせずに「能力の輪」にこだわり続けたことが、バフェットに不動の成功をもたらしたともいえます。
理解していないものには決して手を出さない
投資で成功するためには何が必要なのでしょうか。高いIQか。幅広い専門知識か。
バフェットの「能力の輪」でいえば、その輪が広ければ広いほどチャンスは広がり、大きな収益を上げることができるのではないかとも思えますが、バフェットはその意見には与しません。「ウォール街では誰もが少なくとも140以上のIQ(知能指数)を持っている」(『ウォーレン・バフェット 華麗なる流儀』ジャネット・タバコリ、東洋経済新報社)とバフェットがいうように、金融の世界、投資の世界に高いIQを持つ人間はいくらでもいます。
だからといってIQの高さで成果が決まるわけではありません。なぜなら、「投資というゲームでは、知能指数160の人間が130の人間に必ず勝つとは言えない」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』ジャネット・ロウ、ダイヤモンド社)からです。
では、何によって決まるのでしょうか。バフェットはこう言い切っています。