大手出版社に記事のネット配信を進言
たとえば、私が2010年に大手出版社でネット事業を活発化させる相談をされた時の会議では、「雑誌の記事をネット向けに編集し直し、配信すればいい」という提案をしました。当時私はネットニュース編集者として4年の経験があり、ネットにおける「ウケる記事・ウケない記事の傾向」「読まれるタイトル・読まれないタイトル」「炎上する記事・しない記事」「ポータルサイトへの配信の影響力とその契約方法」「有料課金モデルの難しさ」についてはよく理解していました。
しかし、出版社のネットビジネス未経験の人にとっては「有料のものをネットで無料で公開するのはいかがなものか。雑誌編集部が反発する」「有料会員サイトにすればいいのでは」「むしろツイッターで雑誌の宣伝をバンバン出せばいいのでは」といった意見を持っていました。この3点について大まかなやり取りを振り返ります。色々な人が会議に参加してはいたのですが、仮にA氏と私が2人でやり取りをしたという体にしてみます。
A:せっかくお金をかけて記事を作っているのに、それをタダで出されたらたまったものじゃない、という声が編集部から出るのは目に見えています。
私:理解します。なので、「ネットに出してはいけない記事」をあらかじめ編集部に決めてもらえばいいのではないでしょうか。あと、全文出すのに抵抗がある編集者の原稿については、意味が通じる範囲でカットすればいいと思います。
A:だったら我々がそこを事前に聞いておくということですね。
私:はい、各自のプライドもあると思うので、そこに従うことが重要です。編集部の協力なしにこのプロジェクトは成立しません。一番大事なのは編集部の意向です。
A:分かりました。あと、ネットに無料で出すと雑誌が売れなくなるという懸念と有料会員サイトはどうですか?
私:この4年間で分かったのですが、結局「情報にお金を払わない人は何があろうが払わない人」です。ニュースサイト読者と雑誌読者はかぶりません。元々買わない人向けと割り切ればいいのでは。あと、有料会員については、日経ぐらいしかまだ成功例はないので難しいです。
A:じゃあ、編集部についてはそのように伝えておきます。ツイッターの件は?
私:ツイッターはすでに飽和状態になっているし、宣伝ツイートをするだけで雑誌が売れるとは考えづらいです。もちろん、やるべきだとは思いますが「必死にやる」必要はありません。
こんな感じで、とにかく「皆さんの事情は理解していますが、私の知見は余すとこなくお伝えしますよ」といった喋り方をすることで、軋轢(あつれき)をできるだけ減らす形でプロジェクトはスタートしました。後に編集部もネットで記事が話題になるのを目の当たりにすると「ネット、いいものじゃん!」といった雰囲気になり、我々は強固な協力関係を作ることができたのです。
私はとにかく「75点を取る」を心がけるため、会議の後、自己嫌悪にはなりません。このような意識の低さで会議に臨むのが良いと思います。ただし、人命を預かっている人におかれては別です。あくまでも命がかかっていない会議の場合の話です。