多くの企業が生産管理や会計といった重要な業務で数十年使い続けている社内システムが、経営リスクとして意識されている。つくられた当時の技術を理解できる社員が定年退職したり、無計画に機能を追加して複雑化したりしてブラックボックスになってしまったシステムは「レガシー(遺産)システム」と呼ばれる。障害が巨額損失につながる恐れもあるが、刷新に向けた投資に二の足を踏む企業も目立つ。
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▽危機感
レガシーシステムの障害が多発し、令和7(2025)年以降には最大で年12兆円の経済損失が発生する―。経済産業省は平成30年に公表したリポートで、レガシーシステムのリスクを「2025年の崖」と表現して危機感をあらわにした。
日本情報システム・ユーザー協会の令和元年度の調査では、企業の9割が「レガシーシステムを使っている」と回答。経産省のリポートの作成にも関わったIT大手SCSKの室脇慶彦技術担当顧問は、システムの刷新が「全体的にあまりうまくいっていない」と話す。
室脇氏によると、日本ではシステム全体を統括するIT部門の地位が低い企業が多い。
IT部門が事業部門の要求に従い、場当たり的な改変を続けたためにシステムが複雑化。1980年代につくられたシステムの場合、団塊世代の大量退職で技術を理解できる人が激減した。「システムの現況調査すら進まず、対応が先延ばしになっている」と話す。
IT企業関係者によると、システムの刷新には数年程度かかることもあり、お金もかかる。刷新しても、安定稼働に必要な人員を削減して障害が頻発したみずほ銀行の事例もあり、うまくいくとはかぎらない。そのため、システムが正常に稼働していれば、決断を遅らせる経営陣は多いという。
▽再教育
デジタル化のコンサルティングを手掛けるレクター(東京)の広木大地取締役は、問題の解決にはIT人材の採用拡大に加え、企業内でレガシーシステムに対する危機感を共有することが重要だと指摘する。
IT部門はシステムの危うさに気付いているものの、経営陣や事業部門は無関心ということも多い。役員や社員への再教育でシステムの重要性を認識させ、IT部門とのコミュニケーションを増やすことで、システムを刷新したり、比較的新しいシステムの「レガシー化」を防いだりする道筋を描く。
広木氏は、再教育でIT知識とビジネス経験を兼ね備えた人材が増えれば「(デジタル技術で事業を変革する)デジタルトランスフォーメーションの推進にもつながる」と話している。