例えば従来型の理容店に代わって「1000円カット」が浸透し、髪を切るのに平日の隙間時間を利用する人も増えた。衣類ではコート類をクリーニング店に出す人が減り、自宅の洗濯機で洗えるような重衣料が人気となっている。
家庭内の調理では電子レンジが重要度を増し、“レンチン料理”もなじむようになった。一方で「揚げ物は買うもの」という意識も進み、とんかつは総菜として人気だ。天ぷらは「ふだん、きちんと料理する女性層にも天丼弁当が好評」(天丼チェーン店)という話も聞いた。
豆腐や野菜も近ごろはフリーズドライ製法で多くのレトルト食品に入っている。こうした時代性に食品メーカーとしてどう向き合っていくのか。
「自宅での調理も時短を重視されるので、簡便さには対応します。ただ、少し余白も残しておきたい。すべての具材が用意されていると“手抜き”感が出て、買うのをためらう人が多いからです。『麻婆豆腐の素』の派生商品として『麻婆茄子の素』『麻婆白菜の素』なども展開していますが、別に用意した肉や野菜を加えるなど、みなさんアレンジされています」
麻婆豆腐のジャンルで約半分のシェアを占める背景には、購入後にひと手間加えることで料理が完成するという、「余白を残す」商品開発への支持があるようだ。
「お雑煮」「おせち」に飽きると、麻婆豆腐が売れ始める
丸美屋食品工業は、ふりかけや中華の素、釜めしの素など、さまざまな食品を展開する。「白いご飯になにかを乗せる・混ぜる」商品も多い。コロナ禍でも業績は好調で2021年度の全社売上高は約564億円と22期連続増収を達成した。
コロナ禍の在宅勤務が追い風となった一面もあるが、ふりかけは通勤や旅行激減で手作り弁当を作る回数が減って影響を受けた。むしろ注目したいのは「不景気になると存在感を増す」ことだ。
近年は、同社のお客様相談センターに年配男性からの問い合わせが多いという。「麻婆豆腐の素や釜めしの素などを使って作り始めた方も多いようです」(同社)。
数年前から麻婆豆腐の素の「作り方動画」も投稿している。
「当初は『ここまで必要かな?』と半信半疑でしたが、再生回数は多いです。きちんと伝えることの大切さを再認識しました」
実は、一番売れるのは1月。「おせち料理が終わった時期」なのも興味深い。
「即席カレーと麻婆豆腐の素は似たポジションで、雑煮やおせちの和風の時期を過ぎると登場回数が増えます。メーカーとして思い出してもらえる訴求をしなければなりません」
料理への意識もどんどん変わり、市販の総菜を買ってきて野菜などと一緒に盛りつければ立派な“手作り料理”だ。調理の時短+手作りという余白、への訴求が続く。(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)(PRESIDENT Online)
高井 尚之(たかい・なおゆき) 経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。