新型コロナウイルスのオミクロン株の感染急拡大で、感染の有無を短時間で調べる「抗原検査キット」の不足が深刻化している。「第6波」の収束が見えない中、医療機関では検査対象を絞り、医薬品卸売会社でも希望する数のキットが手に入らない事態が起きている。政府はメーカー側に増産・輸入を要請しているが早期解消の見通しは立っていない。
「検査キットの不足で必要な人に検査できない状態だ。医療機関などに行き渡るようになってほしい」。大阪府富田林市の「ふじおか小児科」の藤岡雅司院長が訴える。
感染疑いのある子供に対し、同小児科では抗原検査キットを用いて判定してきた。鼻の奥の粘液を綿棒で取り、ウイルスのタンパク質を検出するのが一般的な手法で、15~30分で結果が判明する。数時間以上を要するPCR検査よりも手軽に調べられる利点がある。
感染を疑う子供の来院は1月17日以降に急増。キットは一定量使用するごとに医薬品卸売会社に発注してきたが、翌18日以降は入手できない状態になった。インターネット通販などでも探したが、品薄で手に入る見通しがつかないという。
最大30個程度あった検査キットは1日数個ずつ減り、1月31日時点で在庫が9個にまで減った。現在は、発熱症状が見られ基礎疾患を持つ子供▽学校・園で感染を拡大させる恐れがある場合―などに絞って抗原検査を実施しているが、検査が受けられないと分かると、来院しない患者もいるという。
藤岡院長は「新型コロナは症状だけでは分かりづらい。検査キットを使わないと判定できず、発生届も出せない」と話した。
品不足の影響は多方面に広がっている。
抗原検査キットやPCR検査用の試薬を医療機関などに卸している医薬品卸売会社「ケーエスケー」(大阪市)では、成人の日(1月10日)を過ぎたころからキットの発注が相次ぐように。感染者や検査数の急増が背景にあるとみられ、担当者は「メーカーに入荷を求めても、10分の1も入ってこない」と明かす。
感染が落ち着いていた昨年12月、同社のキット出荷は約2万3千回分。これに対し、今年1月は約11万回分に達するほど需要が伸びているといい、物流倉庫では「キットを入荷できても右から左に出ていってしまう」(担当者)という。
こうした現状を受け、同社では現在、一般企業などの事業者向けにキットを卸すのを停止し、医療機関に優先的に出荷するようにしている。それでも現場からは「一刻も早くキットがほしい」との悲痛な声が届く。担当者は「(第6波が)ピークアウトしない限り、状況は変わらない可能性がある」と話した。
自治体も揺れている。岡山県はキット不足で検査機関の負担が増えているとして、無症状の県民を対象にした無料の抗原検査などを2月1日から当面休止する。