習近平もお手上げ…34億人分の在庫を抱えた「中国のマンションバブル」の行き着く先

    PRESIDENT Online

    借り入れができず、未完成で売却もできない

    鬼城に住む人と不動産業者間のトラブルも増えている。住人の中には、不動産業者や地方政府にだまされたと考える者がいる。途中で建設がストップしたまま放置され、契約通りのマイホームを手に入れることができなかった。それにもかかわらず、ローンは返済しなければならない。マイホームを手に入れることは、多くの人にとって夢だ。だまされたという心理が強まるのは無理もない。建設から30年近く経過した鬼城もある。

    住人は高齢化し、新しい物件購入の資金を追加で借りることは難しい。建設が終了していないため、その物件が自分の所有物であることを証明できず、売却を行うことも難しいようだ。断熱も、換気も、上下水道も未整備な住居での生活は過酷だが、家計の支出の抑制や風雨をしのぐために鬼城に住むしかないというのが彼らの本音だろう。倒壊が懸念されるほどに老朽化する鬼城も増えているようだ。

    鬼城に住む人の窮状に共産党政権は危機感を強めている。鬼城問題の解決に向けて、共産党政権はオルドス市に有名進学校を強制的に移転させてマンション需要を喚起した。一部では鬼城に買い手がついたようだ。しかし、それは中国全体でのマンション供給過剰の是正には程遠い。

    不動産バブルがいよいよ本格化する

    今後、鬼城問題は深刻化する可能性が高い。伸び率は鈍化しているが、2021年12月の中国70都市の住宅価格は前年同月比で2.6%上昇した。中国全土で住宅価格の下落が鮮明化すれば、不動産市場では投げ売りが急増するはずだ。“売るから下がる、下がるから売る”という弱気心理が連鎖し、景況感は急速に悪化するだろう。

    共産党政権は一部の融資規制を緩和したり追加利下げを行ったりして不動産市況の悪化を食い止めようと必死だ。習政権は地方政府に住宅購入や建設を支援するよう指示も出している。しかし、土地売却収入の減少によって財政状況の悪化や財政破綻に陥る地方政府は増えるだろう。不動産バブルの崩壊は本格化し、経済全体でのバランスシート調整と不良債権処理の推進は不可避になるだろう。

    中国共産党政権の失策の象徴である

    その結果、鬼城はこれまでを上回るペースで増加する恐れがある。不動産市況の悪化は中国の雇用・所得環境の悪化に直結する。鬼城に住まざるを得なくなる人が急速に増える展開は否定できない。不動産業者や地方政府と鬼城化した物件の購入者のトラブルも増えるだろう。すでに中国では、不動産業者が資金をかき集めるために重複販売を行ったり、販売用の物件を担保として銀行やシャドーバンクに差し入れたりしていたことが発覚している。鬼城の住民が不動産業者などにだまされたとして訴訟を起こすケースは増えるだろう。

    鬼城問題の深刻化は、社会心理を悪化させ共産党の求心力低下につながる。窮状に陥る鬼城の住人や購入者の増加を食い止めるために、共産党政権はこれまで以上に民間企業への締めつけを強め、不動産業者は資産の切り売りを急ぐだろう。それは不動産市場の悪化に拍車をかけ、鬼城のさらなる増加につながる恐れがある。共産党政権がセメントや鉄鋼生産、雇用を増やすために不動産投資を頼り、それによって経済成長率を人為的にかさ上げした代償は大きい。鬼城問題はその象徴だ。

    真壁 昭夫(まかべ・あきお)

    法政大学大学院 教授

    1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

    (法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)


    Recommend

    Biz Plus

    Recommend

    求人情報サイト Biz x Job(ビズジョブ)

    求人情報サイト Biz x Job(ビズジョブ)