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「やっぱり小説が一番面白いよ」 相好を崩した石原慎太郎さん

1日、89歳で亡くなった作家で元東京都知事の石原慎太郎さんは、戦後文壇を代表するスターであり、社会現象になったミリオンセラー作品も数多い。それでも、参院議員や東京都知事といった政治家活動での毀誉褒貶(きよほうへん)も災いしてか、石原さんの文学は正面から論じられることが意外なほど少なかった。だから、取材で小説について突っ込んで聞くと、ぶぜんとしていた表情がふっと和らぎ、せきを切ったように話しだすのが常だった。20代での鮮烈デビューから60年余り。生涯現役を貫いた作家の文学に向ける好奇心と情熱を強く感じる瞬間がいくつもあった。

堺屋太一さんの告別式に参列した石原慎太郎氏=2019年2月17日午後、東京都港区の青山葬儀所(納冨康撮影)
堺屋太一さんの告別式に参列した石原慎太郎氏=2019年2月17日午後、東京都港区の青山葬儀所(納冨康撮影)

「作品がかわいそうだ」

政界を引退した晩年の石原さんにインタビューする機会が2度あった。一度目は平成31年2月。代表作の一つである掌編集『わが人生の時の時』(平成2年)を書いたころを振り返ってもらう企画記事のためだった。東京・田園調布の自宅で約1時間。取材を一通り終え、ICレコーダーを止めてから、愚問とは思いつつ聞いてみた。人生を振り返って、ご自身の職業は何だと思いますか?と。即答だった。

「やっぱり小説が一番面白いよ。政治家同士のだまし合いなんか、薄っぺらいね。僕は作家ですよ。それにヨットマンですよ」

取材前、旧知の編集者から聞いていた。政治家としての印象が強すぎて、自作を色眼鏡で見られてしまうことを石原さんは悲しんでいると。「僕の作品は、かわいそうだ」と常々漏らしている、とも。

その言葉を裏付けるように、この取材中、文学について語る石原さんの口調は滑らかで、実に楽しそうだった。面白いエピソードがぽんぽん飛び出してきた。

石原さんの文学を熟読し「死の影が差している」と的確に評した評論家の江藤淳(1932~99年)との交友。政治信条は相いれないはずのノーベル賞作家、大江健三郎さんとの親密な文学的交流と、彼に抱く感謝の念。そして芥川賞の選考委員として感じた若い作家たちの印象も。

「みんなハラハラする人生を生きていないんだよ。やっぱり生活で冒険していないと、人生の味わいは分からないね。このごろの若い作家のものには、ジェニュインなもの、真実なものはない。面白い、いい純文学に触れたいなあ」

容赦ない物言いは、若い才能に対する期待の裏返しともいえる。

「なんで直接来ない」

文学を語るときの熱気は令和2年9月、結果として最後になったインタビューでも変わらなかった。没後50年を迎える三島由紀夫との交友を振り返ってもらった。新型コロナウイルスの感染防止のため、取材はZOOMを利用したリモート形式になったが、画面越しの石原さんは最初「なんで直接聞きに来ないんだ」と不満そうだった。それでも文学の話となると、相好を崩した。三島文学の最良の作品を称賛し、その文学的行き詰まりを悲しんだ。自身との文学観の決定的な違いも分析してくれた。持ち前の観察眼と記憶力で、在りし日の三島由紀夫の姿をよどみなく語った。

88歳になる直前のころで体調も決して万全ではなかったと思う。取材時間は1時間にも及ばなかったが、テープ起こしをしたら1万字近くになった。

「人生を感じ直すんだよ」

小説には「記憶の芸術」という側面がある。石原さんが語る記憶の情景は映画のワンシーンのように細部まで解像度が高く、スリリングだった。戦時中、横須賀から出兵して戦死した青年将校と交わした最後の会話。スキューバダイビング中に、猛毒をもつヘビと遭遇した海の底の不思議な風景。落雷の危険にさらされたヨットの甲板上で味わった恐怖…。はるか昔の個人的な挿話に過ぎないのに、まるで今自分がその場面にいるように錯覚することが何度もあった。

とくに印象に残った石原さんの言葉が二つある。

「僕は書きながら人生を感じ直すんだよ、強烈に」というのが一つ。見つめ直す、でもなく、考え直す、でもなく「感じ直す」というところが、いかにも行動する肉体派作家らしい。ともすれば思想や論理、技法ばかりこねくり回して頭でっかちな作品になりがちな純文学への痛烈な批判にも聞こえた。

それから、「『死ぬ』ってのは人間にとって最後の未知であり最後の未来ですからね。非常に興味があります。僕を動かしているのは好奇心だよね、人生に対する」という言葉。膨大な作品に結実した旺盛な好奇心は、迫りくる死を前にしても揺らがなかった。(海老沢類)


作家の石原慎太郎氏が死去 元東京都知事、元運輸相



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