主張

    経済安全保障 実効性ある制度の確立を 対中リスクへの備え万全に

    経済活動や先端技術の開発を軍事・外交と一体で捉える経済安全保障に取り組むため、岸田文雄政権が経済安保推進法案を準備している。今国会での成立を目指す最重要法案である。

    半導体などの物資を海外に依存するリスクを減らしたり、軍事転用できる技術を育成・保全したりすることで、厳しさが増す安保環境に備えなくてはならない。そのために不可欠な法整備だ。

    特に念頭に置くべきは、覇権追求をもくろんで経済に不当に介入する中国である。隣国の振る舞いで日本の安全や経済の安定が脅かされないためにも、実効性の高い制度を早急に確立したい。

    ≪海外依存には危うさも≫

    政府は、経済安保法制に関する有識者会議がまとめた1日の提言を踏まえて法案を策定し、月内に閣議決定する運びだ。岸田首相は先の施政方針演説で、経済安保について「待ったなしの課題だ」と語った。この認識は正しい。

    グローバル化の進展で多くの日本企業が複数国にまたがるサプライチェーン(供給網)を築くようになった。そこに隘路(あいろ)が生じれば、経済や暮らしに広範な影響が及びかねない。

    新型コロナウイルス禍の初期、中国に依存していたマスクの調達が滞ったことは記憶に新しい。需要の3分の2を輸入に頼る半導体や、ハイテク機器に使われるレアアース(希土類)なども同じだ。安保上の脅威がある中国などに過度に依存するのは危うい。

    人工知能(AI)や量子技術など、軍事転用できる技術領域が拡大していることも見逃せない。例えば各国企業が開発にしのぎを削る量子コンピューターが実用化されれば、既存の暗号がことごとく破られて国家機密も丸裸にされかねない。これを阻む量子暗号通信技術の開発も安保に直結する。

    同盟国の米国はもちろん、欧州でも経済安保への取り組みを強めている。日本においても法整備を急ぐべきは当然である。

    有識者会議が提言したのは①重要物資を安定供給できるサプライチェーン強靱(きょうじん)化②基幹インフラの事前審査③官民の先端技術協力④特許非公開化―の4つである。共通するのは、政府が民間の経済活動への関与を強めることだ。

    サイバー攻撃に備えてエネルギーや通信、金融などの基幹インフラ事業者が設備を導入する際に事前審査するのは典型だろう。民間が発明した機微技術について、政府が損失を補償した上で非公開にできる制度もそうである。

    無論、企業活動を不必要に阻害することは避けるべきで、規制対象をやみくもに広げるわけにはいかない。ただ、対象を限定したために実効性が損なわれるようでは元も子もない。その点を吟味し、法案の詳細を詰めてほしい。

    ≪官民で認識の共有図れ≫

    産業界には規制強化への懸念もあろうが、経済合理性のみでビジネスが成り立つ国際情勢にないことは理解しておきたい。大切なのは、経済安保の必要性について官民で認識を共有することだ。

    特に、軍民融合を掲げる中国との経済関係を考える上で経済安保の視点は欠かせない。日中は経済的に深くつながっているが、一党独裁下の専制主義がもたらすリスクは十分に警戒すべきだ。

    国際社会では中国による先端技術の窃取などを警戒する声が根強い。経済的手段による他国への政治圧力も目に余る。例えば欧州連合(EU)は1月、リトアニアに対する中国の貿易規制は世界貿易機関(WTO)協定違反だとして提訴した。リトアニアは「台湾」の名を冠した代表部設置を受け入れた後、中国から圧力を受けるようになったとしている。

    こうした動きへの備えを万全にしなければならない。これは中国と対立する米国に追従するためではない。平成22年の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件後、中国がレアアースの対日輸出を滞らせた件を想起すべきだ。日本はあくまでも自らの判断で経済安保に適切に対処しなければならない。

    当然ながら、中国だけでなくロシアなどの権威主義国の動向にも警戒を怠れない。各国で頻発するサイバー攻撃をめぐっては、ロシア軍などの関与が疑われる例もある。問われているのは、自由や民主主義などの価値観を共有する国が経済安保でいかに連携できるかである。そのための責任と行動が日本に求められている。


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