「台湾の決断にむしろ感謝すべき」九州の半導体工場誘致に4000億円の血税が使われた本当の意味

    PRESIDENT Online

    「外国企業は日本の部品無しでは何も作れない」といわれているが、「日本も外国の半導体や製造協力がなければ何も作れない」のだ。いまでは純日本製の家電すら見当たらない。

    台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹市にある、半導体受託生産の世界最大手TSMCの本社ビル(2017年10月5日) - 写真=ロイター/アフロ
    台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹市にある、半導体受託生産の世界最大手TSMCの本社ビル(2017年10月5日) - 写真=ロイター/アフロ

    しかしTSMC熊本工場で作られる22/28nm半導体の汎用性は高く、機械や設備などの制御基板、PC系デバイス、テレビや家電、携帯電話などの通信機器、ゲーム機器、車などの部品として使われる。九州工場の生産能力から出資者であるソニーの需要を差し引いた分の半導体が、国内の各企業に効率的に配分されれば、いま日本の産業界を苦しめている部品不足は解消され、研究開発や商品開発の分野でも大きなチャンスが産まれるはずだ。

    脳波を使った医療器具を開発している私の友人からは、「半導体不足で試作品すら作れない状態だ。オリジナルICチップの製作も高額で、納期も2年待ち」という話を聞いたことがある。このように世界の半導体不足は、新規の商品開発を遅らせ、ベンチャー企業などチャンスを奪い、経済発展を停滞させているのだ。日本にその半導体の生産基地ができることは朗報以外の何ものでもない。

    失われた30年を繰り返さないために

    日本の「失われた30年」は、製造立国としての実力も地位も失った30年だったのかもしれない。2016年にシャープが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収をされた時も、製造立国としての「敗戦」などと表現する人もいた。2022年はその現実を直視し、「失われた40年」にしないための対策を考えなければならない。

    そしていままさに2016年の「ホンハイの矢」に続き、台湾から「第2の矢」が放たれたのではないだろうか。その矢が、救世主としての矢なのか、悪魔としての矢なのかは、受け取る側の判断と対応に委ねられるだろう。

    今後、多くの企業やベンチャーが自由に試作品や研究開発を進められる環境が進めば、世界を変えるような新進気鋭のメーカー企業が再び日本で生まれるかもしれない。どんな企業でもチャンスが与えられる産業政策と環境整備を、日本政府が多額の税金投入の対価としてしっかり進めていけば、必ず日本の製造立国としての復活はあると信じている。台湾もそれに期待して、日本に投資しているに違いない。(アジア市場開発・富吉国際企業顧問有限公司 代表 藤 重太)


    藤 重太(ふじ・じゅうた) アジア市場開発・富吉国際企業顧問有限公司 代表。1967年、東京都生まれ。国立台湾大学卒業、経営学士、日台交流・国際経営アドバイザー。92年香港でアジア市場開発設立。台湾経済部政府系シンクタンク 顧問、台湾講談社メディアGM 総経理などを経て、現在は日本・台湾で企業顧問、相談指導のほか、「台湾から日本の在り方を考える」「日本人としての生き方」などのツアー・講演活動を展開。



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