2024年末までに生産開始予定
11月9日、半導体大手TSMC(台湾積体電路製造)は、半導体製造受託の子会社Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(以下「JASM」)を熊本県に設立し、日本のソニーセミコンダクタソリューションズ(以下「SSS」)がJASMに少数株主として参画すると発表した。SSSはJASMに約5億ドル(約570億円)、を出資し、20%未満の株式を取得。2022年から工場の建設に取りかかり、2024年末までに生産を開始する予定だ。当初の設備投資額は約70億ドル(約8000億円)となる見込みで、「日本政府から強力な支援を受ける前提」とされた。
翌11月10日、萩生田光一経済産業相は閣議後会見で、「TSMCによる先端半導体製造拠点への投資は、わが国のミッシングピースを埋めるものである」「必要な予算の確保と、複数年度にわたる支援の枠組みを速やかに構築したい」と述べた。日本政府はTSMCの誘致に4000億円規模の補助金を出す予定だとみられている。
そして12月20日、台湾経済部(日本の経済産業省に相当)投資審議委員会は、TSMCが最大2378億2080万円を日本に投資し、半導体の受託生産、販売、テスト、回路設計支援を行う事業を認可した。発表によれば、日本の熊本県菊陽町に22/28nmの12インチ半導体生産工場を建設。SSSとの合弁事業で、TSMCの暫定株式保有率は最大81%という。
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「日本側から誘致した」という否定しようのない構図
ここで注目したいのは、TSMCやソニー、荻生田経産相によるアナウンスと、台湾当局による事業認可との時系列的な順序だ。
台湾では外国からの投資案件や、自国企業による外国への巨額投資について、政府の許可が必要になる。これは技術の流失や産業スパイ活動の防止、国家の安全を考慮し、台湾の法律で定められている手続きで、特に中国資本による投資、台湾企業による中国関連の投資は厳しく審査される。
つまり日本側のお膳立てを受けて、TSMCが台湾政府の投資審査を受けたという点が重要なのだ。TSMCと台湾は日本側の要望に応じて、投資を審議している。台湾側が日本側の対応に不満を抱いたり、技術流失の不安を感じたりすれば、台湾政府として投資を認可しない選択肢もあったのである。主導権は、完全に台湾側、TSMCにあったのだ。
したがって、「一世代以上前の平面型22/28nmプロセス、ソニーの20%未満の投資参加、50%近い政府援助」という九州新工場の事業スペックは、日本側がTSMCに提案した内容(の一部)だと考えてよいのではないだろうか。
誘致批判派の的外れな議論
日本では、「TSMCの熊本工場は、日本の役に立たない」「なぜ一世代以上前の技術なのか。それに4000億円もの税金を投入するのはばかげている」と評論する人も多い。中には、「日本の技術を盗まれる」という危惧を口にする人までいる。しかしこれらはすべて、全くのお門違いである。
なぜ付加価値の少ない10年前の技術で合意したのか、なぜ4000億円の補助金がなければ誘致が困難だったのか。それを考えれば、日本の技術の流失を心配する前に、むしろ台湾側が、TSMCの先端技術が日本経由で中国に流出する可能性を心配していたかもしれないと考えるべきだろう。
では客観的にみて、TSMCの日本誘致は是なのか非なのか。まずはソニーにとって、JASMへの出資による事業参加にどのくらいメリットがあるのかを考えてみたい。
ソニーは必要とする半導体のほとんどを海外からの輸入に頼っていた。これが、自社が投資している国内工場から優先的に供給されるメリットは計り知れない。海外調達リスクや値上げリスクからも解放される。顧客からの要望に応じられる可能性や選択肢が増し、機会損失が大きく減ることは間違いない。
さらにJASMが掲げる「回路設計支援」が順調に進めば、これまでの調達体制では作れなかったような回路の開発が可能になることが予想される。さまざまなアイデアを形にできるこの機会創造は、ソニーのさらなる業績拡大につながるかもしれない。
台湾メディアでは2020年の夏ごろ、TSMCがソニー向けCMOSイメージセンサー(CIS)の専用工場を台南に設置するとも報じられた。これが事実なら、ソニーにとっても良い交換条件になったのではないだろうか。