手塚治虫の長編大作「火の鳥」黎明(れいめい)編は、古代の医師が病に倒れた乙女を救う場面からが始まる。火の鳥を通じて手塚治虫が命の尊さと向き合い続けたように、命と向き合う医療従事者をサポートしていきたい-。コンセプトは「人の代わりとなる」ものではなく、「人に仕え、人を支えるロボット」。手塚プロダクションからも賛同を得て、国産初の手術支援ロボットはヒノトリと命名された。
「100点満点。感無量だ」
ヒノトリは2020年8月、ついに製造販売承認を取得する。日本市場では泌尿器科を対象に導入されることになり、同年12月には神戸大学医学部付属病院(神戸市)で1例目の手術が成功。開発に携わり、執刀も担当した神戸大大学院の藤沢正人医学研究科長は「大きなトラブルもなく100点満点。感無量だ」と語った。病院によると、手術は前立腺がんの70代男性患者に対する前立腺の全摘出で、時間は約4時間半だった。
医療機器の開発は医学と工学が連携して進められる。ヒノトリは医療現場のニーズに応える「医工連携」の象徴ともいえる。例えば、ヒノトリには「ネットワークサポートシステム」が標準装備され、アームの動きを記録することもできるという。今後は医師の手さばきを蓄積し、手術の自動化も目指しているのだ。第5世代(5G)移動通信システムを活用し、ヒノトリを使った遠隔手術の実用化に向けた実証実験も進む。山本さんはこんな未来を見据える。
「熟練した医師がいるかいないかで、患者さんが受けられる医療に差がある場面がありました。これからは、地方の若手のお医者さんが執刀する際、判断に迷う個所を手術するときに、熟練した先生が遠隔支援に入るという未来もあるのではないかと思っています」