空調大手のダイキン工業が急成長を続けている。株価はこの10年で7倍以上となり、上昇率はグーグルを超えた。IGS社長で一橋大学大学院特任教授の福原正大さんは「ユーザーの求めに応じて社内を大きく変えた結果だ」という――。※本稿は、福原正大『日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営』(英治出版)の一部を再編集したものです。
総売上高は約3兆円、空調機では世界ナンバーワン
今年1月7日時点での企業の時価総額世界ランキングにおいて、1位のアップル(2.8兆ドル=約322兆円)以下、トップ10のうち米国企業が8社を占めている(他は3位にサウジアラビアの国有石油会社・サウジアラムコ、10位に台湾の半導体製造会社・TSMC)。
では日本企業はというと、29位にようやくトヨタ自動車(0.32兆ドル=約37兆円)が入っており、その次は92位のソニーグループ(0.15兆ドル=約17.3兆円)という状況だ。
30数年前のバブル時代には、トップ10の半分以上をNTTや金融機関などの日本企業が占めていたこともあり、それに比べると雲泥の差である。
その一方で、株価の成長率ではGAFAの一角であるGoogleを超えている日本企業がある。それが、空調機メーカーのダイキン工業(以下、ダイキン)である。
総売上高は3兆円に迫り、空調機では世界ナンバーワンのシェアを誇っているダイキンが、この10年に限ってみれば、株価の成長率においてグーグルを上回っているのである(図表1参照)。
2011年1月の株価と比較すると、10年後の2021年1月には、アルファベットの株価が約6倍に成長しているのに対し、ダイキンの株価はそれを上回る7倍以上にもなっている。
ソニー、トヨタ、パナソニックといった日本を代表する企業と比べると、株価の成長率は2倍以上となっている。
この10年で起きた“ある変化”
160カ国以上に事業展開し、生産拠点数は世界100カ所以上に及ぶ空調機メーカーのダイキンが、今や日本のメガバンクに匹敵する時価総額を持っていることは、意外と知られていない。
このダイキンをここまで大きく成長させている大きな理由の一つが、この10年間に、急速に社内での意識変革を成し遂げ、未来への投資を推し進めてきたことである。
その象徴として挙げられるのが、同社が2017年に、ダイキン情報技術大学を設立したことだ。
この大学は、新卒社員100人を2年間現場に配属せず、AIやIoTの専門家、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を担う人材に育てるために設立したもので、今後、2023年度末までに1500人を育成する方針となっている。
私たちの会社IGSは、ダイキンにおいて役員研修や幹部研修、基幹職研修、DXに関する人材データ収集、そして情報技術大学など、さまざまなプロジェクトに関わっている。その中で強く感じるのは、ダイキン全社が一丸となってDX改革を推し進める姿勢を持っていることだ。
DXは人と組織の問題である
私はこれまで、DXを推進する企業をいくつも見てきたが、デジタル改革をどう進めていくか、という観点から、戦略や技術の不足に目が向いている企業が多い。
「そもそも企業はどこに向かい、どんなDXを実現したいのか」「どんな人材がそれを担うべきなのか」「組織はどう変わるべきか」といった、人と組織の問題について議論がないまま進んでいるといった状況だ。
一方でダイキンは、DXは人と組織の問題であると組織全体で捉え、テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)と人事本部を中心に、DX改革を推し進めている。