【ソウル=時吉達也】韓国大統領選の保守系最大野党「国民の力」候補、尹錫悦(ユン・ソンヨル)前検事総長が、大統領に就任すれば文在寅(ムン・ジェイン)政権に対する捜査を行うと宣言し、波紋が広がっている。文大統領は10日、「強い怒り」を表明し、尹氏に謝罪を要求。韓国では過去の政権交代時にも退任後の大統領や家族が相次ぎ摘発されており、投開票まで残り1カ月を切った選挙戦で文字通り「命がけ」の攻防が激しさを増すのは必至だ。
/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/OGOFOXAQSFMHBBOTZP7EBHZEZY.jpg)
「文在寅政権で違法行為を犯した人たちも、相応の処罰を受けなければならない」。発端は、尹氏が9日、韓国紙のインタビューでこう述べたことだった。
尹氏は検察在職当時の2016年に発覚した、朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)の友人による国政介入事件の捜査を指揮。革新系から手腕を高く評価され文政権発足後に昇進し、19年には検事総長に抜擢(ばってき)された。しかし、曺国(チョ・グク)法相(当時)ら政権中枢による不正疑惑の捜査に踏み込んだことで政権との対立が表面化。検察を追われる形となった。
/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/K2D2P4GTJVOLXM7BZRMXOB2JXI.jpg)
尹氏は「(過去の保守政権に対する)現政権初期の捜査は憲法、原則にのっとったもので、次の政権が自分たち(文政権)の不正と違法を捜査すれば『報復』になるのか」と強調。「政治報復」の意図はなく、捜査は適正に実施されると説明した。
これに対し、文大統領は10日、秘書官らとの会議で「根拠なく政府を『積弊(蓄積された弊害)清算』の対象に仕立てたことに、強い憤怒を表す」と発言。大統領は政治的中立の立場から選挙戦への言及は控えるのが通常で、「肉声で野党候補を正面から批判するのは極めて異例」(韓国メディア)の事態だ。
文氏は、レームダック(死に体)化し不正疑惑が噴出することが多い政権末期としては異例の40%台の高い支持率を維持しているが、野党関係者は「骨抜きになった検察に守られているだけで、大統領本人に結びつく疑惑は十分に存在する」と指摘。文氏の長年の知人が出馬した韓国南東部蔚山(ウルサン)市長選(18年)に大統領府が介入した疑惑などから捜査が展開されると予測する。
今回の尹氏の発言は政権交代を求める保守層の支持を固める狙いがあるとみられる。一方、与党陣営も「検察権力者の傲慢な本性が表れた妄言」などと非難を強め、尹氏を攻撃する材料として活用する構えだ。