北京五輪の細く揺らめく聖火が意味するもの

    中華人民共和国によるウイグル人に対する人権侵害が行われる中、そして、ロシアがウクライナ国境に10万を超える部隊を集結させ、戦争か屈服かの選択をウクライナや欧米に迫っている中、北京で冬季オリンピックが始まった。その開会式で聖火の最終走者を務めた2人のうち1人はウイグル族のジニゲル・イラムジャン選手だった。

    北京冬季五輪の開会式で聖火の最終走者を務めた2人のうち1人はウイグル族のジニゲル・イラムジャン選手だった=4日午後、国家体育場(松井英幸撮影)
    北京冬季五輪の開会式で聖火の最終走者を務めた2人のうち1人はウイグル族のジニゲル・イラムジャン選手だった=4日午後、国家体育場(松井英幸撮影)

    自由・民主主義陣営に対する闘争

    彼女が漢民族の男子選手とともに聖火台に据えた聖火は、細く揺らめいた。その演出を賞賛する声もあるようだが、それは、消えそうになりながら揺らめいているウイグルやウクライナの人々の希望や人権のようにも見えた。

    欧米主要国や日本がウイグルの人権抑圧に抗議して外交的ボイコットをする一方、ロシアのプーチン大統領はこれ見よがしに開会式に出席して習近平主席と会談した。その後発表された共同声明では、習近平主席は、プーチン大統領に同調してNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大に、プーチン大統領は習近平主席に同調して台湾の独立に、それぞれ反対する旨表明した。

    加えて両首脳は、中華人民共和国やロシアを専制主義国家と位置づける欧米や日本の姿勢を非難するとともに、米英豪の安全保障の枠組みAUKUS(オーカス)を非難し、アジア太平洋地域とヨーロッパにおける中距離ミサイルの配備に反対することも表明した。本来、平和と融和の祭典であるべきオリンピックの舞台は、二大専制主義国家が準同盟関係と自由・民主主義陣営に対する闘争を宣言する場と成り果てたと言わざるを得ない。

    自由・民主主義的価値観に立脚する欧米諸国及び日本が共産主義的価値観に立脚していたソ連、中華人民共和国との冷戦に勝利して以降、自由・民主主義的価値観の正当性に公然と異議を唱え、自己の価値観こそ正当であると主張する国はなかった。

    しかし、この共同声明は、そのような時代に終わりを告げ、自由・民主主義陣営が、再び、価値観が根本的に異なる専制主義国家群と対峙(たいじ)しなければならなくなったことを明らかにした。自由・民主主義陣営は一致結束して共産主義陣営に勝利したように、専制主義陣営にも一致結束して対峙し勝利を収めなければならない。

    そのような状況にある中、かねて“親中派”とされる林芳正外相が2月11日、日米豪印4カ国の枠組み「クワッド」の外相会談に、12日には日米韓の外相会議に出席した。林外相は、就任して間もない今年1月13日に日本記者クラブで会見し、自分の外交方針として、故大平正芳元首相が唱えたという「楕円の理論」を引き合いに出し、「なんとか一つの楕円(だえん)にする努力をやらなければならない」と語り、日本は米中の間にあってバランスを取ることの重要性を強調したとされる(同日配信の朝日新聞デジタル)。


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